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若い藝術家の肖像1 [20世紀イギリス文学]

 「若い藝術家の肖像」 ジェイムズ・ジョイス作 丸谷才一訳 (集英社文庫)


 文学を志すようになる青年の成長過程を、いくつかの断章によって描いた作品です。
 主人公のモデルはジョイス自身です。大作「ユリシーズ」につながる自伝的小説です。


若い藝術家の肖像 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

若い藝術家の肖像 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/07/18
  • メディア: 文庫



 スティーヴン・ディーダラスは、カトリックの国アイルランドで生まれ育ちました。
 全寮制の学校に入り、一家の没落と転校などを経験しながら、成長していきました。

 15歳の頃、作文の賞金で得たカネで娼婦を買った後、娼婦のもとに通い始めました。
 ある日、神学校における校長の説教によって動揺し、罪を自覚して懺悔しました。

 改心したスティーヴンは、校長先生に見込まれて、司祭になるよう勧められました。
 しかし、ある啓示によって文学の道へ、藝術の道へと進むようになって・・・

 宗教の道へ進むことを拒んで、藝術の道へ進んでいく青年の物語。
 そして、スティーヴン イコール ジョイス。そのような予備知識はありました。

 ところが冒頭を読んで、私は戸惑いました。
 いったいこれは何なのか。昔話なのか。

 「むかし むかし、そのむかし、とても たのしい ころのこと、いっぴきの うし
 もうもうが、みちを やってきました。」(P13)

 しばらく読み進めても、作者の意図が分からなかったので、巻末の解説を読みました。
 結城の解説で物語の大枠が提示されているので、それを読んでようやく納得しました。

 スティーヴンの精神状態を、文体で表現しているとは!
 予備知識なしに読んで、「なるほど」と感心する人は、どのくらいいるのでしょう?

 また、多くの断章から成っているので、なかなかストーリーが見えてきませんでした。
 180ページぐらいまでは、読むのがたいへんでした。

 ところで、この本(集英社文庫版)は、約680ページあります。最初はびびりました。
 しかしよく見ると、訳注が100ページほどあるではありませんか。(読まないって!)

 ジョイスの他の作品も含めて、物語の核心に迫るには、膨大な訳注が必要だと言う。
 しかし本当にそうでしょうか。むしろ、訳注に頼るようではいけないのではないか。

 ともかく私は、読まなければならないのは475ページまでだと知り、ほっとしました。
 訳注と解説をバッサリ削り、値段を1000円以内におさめてくれたらありがたいです。

 話は戻りますが、「むかし むかし、」のような書き方を、表現の工夫と考えるか、
 表現の遊びと考えるかは、微妙なところでしょう。私はあまり感心しませんでした。

 そういえばフォークナーの「響きと怒り」も、同じような試みをしていました。
 「響きと怒り」はもっとひどくて、読者を混乱させる罠のように私は感じました。

 さて、「若い藝術家の肖像」が面白くなるのは、娼婦と関係を持ってからです。
 そして、Ⅲ章に入ってから、50ページほども続く校長の説教!

 「地獄とは、狭く、暗く、臭い牢獄であります。悪霊と亡霊の棲み家で、火と煙に満
 ちています。この牢屋の狭さは、神の掟にしばられることを拒んだ人々を罰するため、
 神が特別に設けたものである。」(P223)

 この説教の部分は、非常に力を入れて、そしてややコミカルに描かれています。
 私的には、前半の最大の読みどころでした。

 こんなふうに脅かされたら、あとになって、なんとなく違和感を覚えるものですよ。
 スティーヴンが校長の誘いを蹴って、藝術を目指す伏線となっているように思います。
 
 現在、「若い藝術家の肖像」は、Ⅳ章まで読みました。
 次回、この続きを紹介したいです。

 さいごに。(ザッハトルテ)

 先日、姪っ子の結婚式で、東京に行ってきました。
 ウィーン料理で有名なカフェで、ランチをしました。

 ここで食べたザッハトルテは、チョコのコーティングが本格的でおいしかったです。
 「なんちゃってザッハトルテ」ではありません。760円ですが、また食べたいです。

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