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007 カジノ・ロワイヤル [20世紀イギリス文学]

 「007 カジノ・ロワイヤル」イアン・フレミング作 白石朗訳(創元推理文庫)


 ソ連の大物スパイを、ギャンブルで破滅させる作戦を描いた、人気スパイ小説です。
 007シリーズ第一作です。2006年にダニエル・クレイグ主演で映画化されました。


007/カジノ・ロワイヤル (創元推理文庫)

007/カジノ・ロワイヤル (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/08/22
  • メディア: 文庫



 英国秘密情報部員で、殺しのライセンスを持つ男、ジェームズ・ボンド。
 今回の任務は、ソビエト連邦の大物スパイを、ギャンブルで破滅させることです。

 ボンドは、協力者であるフランス参謀本部局員マティスと、ホテルで合流しました。
 そこでボンドは、すでに何者かが周辺を嗅ぎまわっていることを知らされました。

 いったいどこで情報が漏れたのか? ボンドには思い当るふしがありません。
 今回の相棒である美女ヴェスパーとも一緒になり、いよいよ勝負に乗り込みます。

 ル・シッフルは、高額テーブルの胴元となっています。
 最初は良かったものの、しだいに運が離れ、そして最後の勝負にも負けて・・・

 手に汗を握る展開です。バカラを知らなくても、充分に熱気が伝わってきます。
 タイトルから言っても、作者はこの場面を描きたかったのだな、と思いました。

 「幸運は主人ではなく召使だ。幸運は肩をすくめて受けいれるか、とことん利用する
 ものだ。」(P69)・・・そういうものなのか?

 カジノの次は拷問シーンです。どんな拷問か、原作ではよく分からなかったです。
 動画で出ていた映画版を見ましたが・・・これは絶対、やめてほしい!

 彼はいかにして窮地を脱するのか? しかし、肩透かしを食らいました。
 ここが唯一の残念な場面です。どんな窮境も自分の力で切り開いてほしかったです。

 さて、この小説は、すべて終わったと思ったあと、まだ80ページも続きます。
 そして、この80ページがある意味重要で、物語の種明かしにもなっています。

 ボンドが言った次の言葉は、とても印象に残りました。
 彼はなんと、「007を辞める」と言うのです。

 「ル・シッフルは、わたしがやっているのはしょせん”子供じみた鬼ごっこ”だといっ
 たんだよ。それで・・・突然その言葉のとおりではないかと思えてきたんだ。」(P206)

 しかし、逆にこの物語で彼は、ホンモノのスパイへと成長していくのです。
 ボンドがやめなかったおかげで、007シリーズは映画ともども皆から愛され続けます。

 ちなみに、映画版「カジノ・ロワイヤル」も、とても評判が良いようです。
 時間があったら、見てみたいです。



 さいごに。(妻が入院)

 妻は少し前から、視界が狭まったと感じていたと言います。検査結果は、網膜剥離。
 昨日の朝、急遽入院し、その日のうちに手術をしました。とても心配です。

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パタゴニア [20世紀イギリス文学]

 「パタゴニア」 ブルース・チャトウィン作 芹沢真理子訳 (河出文庫)


 最果ての地パタゴニアを旅したチャトウィンが、97章で綴った文学的紀行文です。
 著者の第一作です。池澤夏樹編集の世界文学全集(河出書房)に収録されました。


パタゴニア (河出文庫)

パタゴニア (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2017/09/05
  • メディア: 文庫



 チャトウィンの祖母の家には、ブロントサウルスの皮の切れ端がありました。
 彼は子供のころ、この恐竜が生息していたというパタゴニアに憧れを抱きました。

 1974年12月、30代半ばで新聞記者を辞めて、いよいよパタゴニアに出発します。
 最果ての地、険しい山々、美しい湖水、切り立つ氷壁、息をのむほどの絶景・・・

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 ところが、風景についての描写よりも、人物についての記述の方が圧倒的に多い。
 インディオ、皇太子、ピアニスト、詩人、牧夫、空想的冒険家、ギャング・・・

 前半でもっとも印象に残ったのは、なんといってもオレリー=アントワーヌです。
 弁護士を辞め、家族の共同預金を引き出し、パタゴニア王となるべく出発した男!

 彼は通訳と2人の大臣を連れて、インディオのアラウカノ族のもとを訪れました。
 すると、族長が死ぬ前に「白い異人がやってくる」と予言していたおかげで・・・

 妄想を実現させてしまう飛びぬけた実行力! ひとつ間違えばただの狂人ですよ。
 事実は小説より奇なり、と言いますが、まさにその通りです。

 また、時々ちょこっと出てくるだけの人物も、なかなか魅力的です。
 私のお気に入りは、トレベリンの中心人物で、61歳のミルトン・エバンズです。

 娘がビールを持ってくると、エバンズは自慢の英語でこう言って飲み干します。
 「はっはー! 馬のしょんべんだ!」

 さて、例の皮の切れ端は恐竜のではなく、ミロドンという巨大なナマケモノでした。
 しかし、パタゴニアの魅力は少しも薄れません。そこに住む素敵な人々のおかげで。

 ところでチャトウィンは、今年7月に岩波ホールが閉館したとき、注目されました。
 最終作品が、「歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡」であったためです。



 チャトウィンと一緒に旅をしているような、そんな気分になる映画だそうです。
 ややマニアックな作品だと思いますが、予告を見たら映画も見たくなりました。

 さいごに。(土砂崩れ)

 昨日の台風が直撃し、うちに続く道のひとつが、土砂崩れで不通になりました。
 16年住んでいて初めてです。珍しいので、娘と一緒に見に行きました。

 現地では、ほかにも多くの人に会いました。土砂崩れの見学会みたいでした。
 復旧には時間がかかりそうです。幸い二本の道があるので、出勤はできます。

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わたしたちが孤児だったころ [20世紀イギリス文学]

 「わたしたちが孤児だったころ」カズオ・イシグロ作 入江真佐子訳(ハヤカワ文庫)


 探偵として成功した「わたし」が、かつて上海の租界で失踪した両親を探す物語です。
 日本生まれのイギリス人で、ノーベル賞作家イシグロの、第5作の長編小説です。


わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)

わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2006/03/01
  • メディア: 文庫



 「わたし」ことクリストファー・バンクスは、子供のころ上海の租界で育ちました。
 しかし、両親が反アヘンの運動に関わったためか、二人とも行方不明となりました。

 伯母を頼ってロンドンに渡ったクリストファーは、探偵としての地位を築きました。
 ロンドンで、いなくなった両親の居場所の目途をつけ、いよいよ上海にわたり・・・

 両親はどこに行ったのか? まだ生きているのか? 誰による犯行だったのか?
 フィリップ叔父さんは、なぜクリストファーを置き去りにしたのか?

 ハードボイルドっぽい雰囲気で、スリリングな展開をするとても魅力的な作品です。
 特に、上海での展開が目まぐるしくて、読み始めたら、本を置くことができません。

 この作品は、上海の租界と幸せだった子供時代に対する、喪失感を描いています。
 昔の上海も子供時代も遠いところに行ってしまい、もう戻らないという喪失感を。

 上海については、子供時代にヒーローだったクン警部の言葉が象徴しています。
 落ちぶれたクン警部の言葉に、作者が最も伝えたかったことがあるように思います。

 「この街に負けました。誰もが友人を裏切ります。誰かを信じても、結局そいつは
 ギャングの手下だったってことがわかるのですよ。政府もギャングと同じです。こ
 んなところで職務を果たす刑事って何なんでしょう?」(P343)

 クン警部のおかげで、両親の幽閉場所の目星がついて、単身つき進むが・・・
 最後にイエロー・スネークが語った真実は、まったく意外で・・・

 父はどうなったのか? 母はどうなったのか? フィリップ叔父さんは?
 そして、クリストファーに与えられた遺産は、誰によるものだったのか?

 「わたしには子供時代がとても外国の地のようには思えないのですよ。いろんな意
 味で、わたしはずっとそこで生きつづけてきたのです。今になってようやく、わた
 しはそこから旅立とうとしているのです」(P467)

 両親と子供時代を取り戻そうとした彼は、その代償に、残酷な真実を知りました。
 真実をしっかり見据えて、ようやく子供時代の呪縛から解放されたと思います。

 さて、この物語の終盤で、突然アキラが登場した点が、やや不自然だと感じました。
 彼は自分の役割を果たすとあっけなく退場します。ここに御都合主義を感じました。

 とはいえ、「読ませる」作品です。
 これまでに読んだカズオ・イシグロの作品の中で、最も面白かったです。

 さいごに。(すでに過労死ライン)

 10月に大きなイベントを控えています。その責任者が私なので、連日大忙しです。
 ここ10日ほど本を1ページも読めず、ブログもまったく書けませんでした。

 まだ中旬というのに残業時間は50時間超え。今月の残業もおそらく100時間超え。
 こんな状況なので、しばらく更新できていませんでした。

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ホテル・ジャンキー [読書・ライフスタイル]

 「ホテル・ジャンキー」 村瀬千文 (王様文庫)


 ラッフルズ、リッツ、プラザ、アマンダリなど、一流のホテルを紹介しています。
 村瀬の第一作で、リッツで堂々とクレームを付ける話などが、話題になりました。


ホテル・ジャンキー―ホテルが大好きでやめられない (王様文庫)

ホテル・ジャンキー―ホテルが大好きでやめられない (王様文庫)

  • 作者: 村瀬 千文
  • 出版社/メーカー: 三笠書房
  • 発売日: 2000/01/01
  • メディア: 文庫



 「部屋を替えて」と言って、そっけない対応をされた村瀬は、毅然と言い放ちます。
 「マネージャーとお話ししたいので伝えてください」と。しかも、リッツで・・・

 私はこのプロローグで驚きました。
 だいたい、リッツ様が選んでくださった部屋を、替えたいなんて言っていいのかと。

 そういう意味で、衝撃的な本でした。ホテルに対する見方を変えてくれました。
 ほかにも、ダメなものはダメと、はっきり書いてあります。たとえ一流ホテルでも。

 シンガポールの「ラッフルズ・ホテル」は、私の最も行きたいホテルですが・・・
 村瀬が訪れた81年の頃は、過去の資産を食い潰しきる最後の時だったと言います。

 日本ではバブル崩壊後、数々のホテルが銀行の経営を肩代わりしました。
 ラッフルズもしかりで、銀行の傘下に入ったことから不幸が始まったと言います。

 「銀行マン的発想で、『これはムダだ』などと言って、金を出すのと同時に余計な口
 も出すものだから、ホテルはどんどんダメになってしまう。」(P41)

 それでもラッフルズの写真を見ると、いつかは泊まりたい、と思ってしまいます。
 この本には、美しい写真が多数収録されているので、見ていてとても楽しいです。

 デンマーク人船長が始めたという、タイの「オリエンタル・バンコック」。
 わざわざ車で2時間という不便な場所に作られた、「アマン・リゾーツ」。

 貴族の執事的サービスを信条とする、超名門「リッツ・カールトン」。
 英国植民地支配を支えた東インド会社起源の、「マンダリン・オリエンタル香港」。

 プラザ合意で知られている、ニューヨークのホテル「プラザ」。
 アメリカ建築界の大御所ペイが携わった、「フォーシーズンズ・ホテル・NY」。

 「フォーシーズンズ」が登場して、私はとても嬉しかったです。
 というのも、我々は新婚旅行でハワイ島の「フォーシーズンズ」に泊まったので。

 その名も、「フォーシーズンズ・リゾート・フアラライ」。宿泊は2002年のGW。
 その前年、どこかの雑誌(?)のランキングで世界一(!)に輝いたホテルです。

 一生に一度のことだと思って、思いっきり無理をして、ここに予約を取りました。
 さすが、とびっきり贅沢で、すばらしい環境でした!

 しかし、何もかもあまりに贅沢すぎて、私はあまり落ち着けませんでした。
 今思うと、身の丈に合わないホテルでした。とはいえ、とても貴重な体験でした。

 さて、本書を紹介したら、「ホテル・ジャンキーズ事件」に触れざるを得ません。
 掲示板の書き込みを勝手に本にまとめたら、投稿者に訴えられたという事件です。

 つまり、この本の文章も掲示板からパクったものかもしれない、ということか?
 そうだとしても私は、この本の魅力は、ほとんど損なわれないと思っています。

 さいごに。(懐かしきフォーシーズンズ)

 ハワイ島1周ツアーに参加したり、マウナケア・ツアーに参加したり・・・
 今思うと、もったいなかった。一日中ホテルでのんびりしていれば良かったのに!

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恐怖 [20世紀イギリス文学]

 「恐怖」 アーサー・マッケン作 平井呈一訳 (創元推理文庫)


 ある田舎町で次々と起こる殺人事件と、住民たちの恐怖について描いた物語です。
 「パンの大神」「白魔」に並ぶ、作者の代表作のひとつです。


恐怖 (創元推理文庫 F マ 1-3)

恐怖 (創元推理文庫 F マ 1-3)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/05/19
  • メディア: 文庫



 第一次世界大戦のころ、ある田舎町で、次々と不気味な殺人事件が起こりました。
 岩礁で、石切り場で、沼地で、ボートで、それぞれ様々な死に方をしていました。

 狂人のしわざか? それとも、ドイツ人スパイのしわざか? 
 恐怖に包まれた街に、ドイツ軍がすでに地下に潜んでいるという噂も流れました。

 各所に監視員が置かれました。しかし、奇妙な殺人事件は後を絶たず・・・
 人里離れた一軒家では、多くの死者を出して・・・残された手記には・・・

 「いまわれわれは恐怖時代を生きています」 しかし恐怖は、どこから来るのか?
 何者のしわざなのか、まったくわからないまま、話はじわじわと進んで行きます。

 しかも、残された手記を読んでみても、犯人が誰なのかさっぱり分からないのです。
 読んでいて私は、最後まで解決されないのではないかと、心配になりました。

 「しかしね、人間、どうにも解決できんことにぶつかったら、それはそのまま未解決
 のままでおいておけばいいのさ。謎がどうしても解けんと、人間は、なあに謎なんか
 どこにもないんだというふりをする。」(P567)

 そして、ルイス医師が最後に達した結論は・・・
 やや突飛でオカルト的な解答に、戸惑う読者もいるかと思います。

 さて、「生活の欠片」は、新婚夫婦に、オカルト的世界が忍び寄るさまを描きます。
 オカルト的世界がよく分からず、もやもやしたまま進行するところが不気味でした。

 新婚のエドワードとメアリのもとに、メアリの叔母から小切手が送られてきました。
 ふたりはその使い道をあれこれと考え、いろいろ話しながら幸せな時間を過ごします。

 ところがその叔母がメアリに、「65歳の夫が浮気をしている」と相談しに来たのです。
 叔母は、「叔父と散歩をしていると、夫を呼ぶ口笛が何度か聞こえた」と言うのです。

 口笛が聞こえた後、叔母がこっそり見てみると、叔父は少年と何か話していて・・・
 叔父が言うには、自分はフリーメーソンの幹部で、少年はその密使であり・・・

 自分の夫が浮気をしていると言う叔母、その叔母を狂っていると考えている夫婦。
 突然訪れた叔父もまた、叔母が狂っていると言いますが、どこかちぐはぐな感じです。

 結局、叔母が正しかったのか、叔父が正しかったのか、分からないまま終わります。
 このあと、この夫婦がどうなっていくのか、とても気になりました。

 ところで、この物語中のエドワードがひとりで遠出をする話は、私のお気に入りです。
 彼が語るのは、まさに「男のロマン」。妻はそれを、楽しそうに聞いてくれています!

 「ところがその朝は、そういうどこにでもあるものが、まるで自分がお伽ばなしの魔
 法の眼鏡をかけて、お伽ばなしのなかの人物にでもなったように、なにか新しい光の
 なかで、ぼくの目にあざやかに浮き出して見えてね、ぼくはその新しい光のなかをテ
 クテク歩いて行ったわけだ。」(P363)

 本筋とはあまり関係のない部分ですが、読んでいてとても楽しかったです。
 うちのおくさまに同じことを言ったら、「だから、なに?」と言われそうなので。

 さいごに。(信じられるのは生稲議員だけ)

 旧統一教会関連団体への祝電や訪問について、「知らなかった」と言う議員が多い。
 しかし、私には信じられません。そんなに「アホ」な人たちだとは思えないので。

 唯一信じられるのは、「関連団体とは知らずに訪れた」と言っている生稲議員のみ。
 そうでしょうとも、そうでしょうとも。それはありそうな話です。私は疑いませんよ。

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パンの大神 [20世紀イギリス文学]

 「パンの大神」 アーサー・マッケン作 平井呈一訳 (創元推理文庫)


 パンの神を見た女性から生まれた美しい娘が、数々の男を破滅させる物語です。
 中編怪奇小説で、作者の代表作とされます。クトゥルフ神話に影響を与えました。


恐怖 (創元推理文庫 F マ 1-3)

恐怖 (創元推理文庫 F マ 1-3)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/05/19
  • メディア: 文庫



 「この森羅万象、これはきみ、みんな一場の夢にすぎないんだぜ。影にすぎないんだ
 ぜ。ーーつまりだな、われわれの目から真実の世界をおおい隠している、一抹の影に
 すぎんのだよ」(P18)

 脳外科医のレイモンドは、少女メリーの脳髄に手術を施し、精神を目覚めさせました。
 すると彼女は、「パンの大神」なるものを見て、ショックで痴呆状態となりました。

 月日が経ち、ちまたでは数々の上流階級の男たちが、謎の自殺を遂げていました。
 彼らはいずれも、何かとても恐ろしいものを見たショックで、死んだようなのです。

 彼らを自殺に追い込んだのは何か? 彼らはいったい何を見たのか?
 ある青年がいろいろと探っているうちに、謎の女に行きあたって・・・

 「人間は遠いむかし、ものの核心にある恐ろしい秘密の力の知識を、うまくヴェールで
 隠していたんだね。その秘密の力の前に出ると、人間の霊魂はちょうど電流に触れると
 からだじゅうまっ黒焦げになるように、まっ黒にひからびて死んだものなんだ。」(P87)

 人間には、見てはいけない世界があるのですね。
 ちなみにパンは、ギリシア神話に出て来る牧神パンのことで、女好きで有名な神です。

 「内奥の光」は、作者の分身ダイスンが登場し、探偵小説的な味付けがされています。
 医師ブラックの妻が不可解な死に方をしたので、死体検証をしてみると・・・

 「悪魔の脳髄ですよ。あれは悪魔の脳髄です。」
 いったい夫人に何があったのか? そのことにブラック医師はどう関わっているのか?

 「輝く金字塔」にもダイスンが登場し、ちょっとした推理めいたことをします。
 ただし、読み終わったあともよく分からない部分があって、私はもやもやしました。

 穴居人たちはどこから湧き出したのか? 時空を超えてやってきたのか?
 穴居人たちはそこで何の儀式をしていたのか? そしてどこへ去ったのか?

 「赤い手」もまた、ダイスン登場作品で、推理小説っぽい物語です。
 ダイスンとフィリップスが、ある夜一人の男の死体に遭遇するところから始まります。

 男は一万年前の石斧で殺されていて、近くの塀には赤い手の絵が描かれていました。
 しかもそのとき男が持っていた手紙は、暗号のような意味不明の文面で・・・

 この作品も、読み終わったあと、もやもやが残りました。
 「持主」というのは誰か? 埋葬された原始人か? それとも今を生きる穴居人か?

 「白魔(びゃくま)」は、アーサー・マッケンの怪奇短編小説を代表する作品です。
 この作品には、幼い少女と「白い人」という魔物との交流が描かれています。

 「『悪』というものは、本来は孤立したものなんだ。『悪』とは孤独の欲情であり、
 個人的な熱情だ」と、「悪」についての独特の見解が示されていて面白いです。

 「白い人」とは何だったのか? それを知っていた乳母は、いったい何者なのか?
 女精アランナとは何者なのか? 少女の身に何があったのか?

 さて、アーサー・マッケンの代表作を、長編の「夢の丘」だという人は多いです。
 しかし私は、怪奇小説であるこちらの短編集のほうを、絶対にオススメします。

 さいごに。(選挙をやり直してほしい)

 7月10日の参院選では、比例で自民党に入れてしまいました。支持政党なので。
 あの時は、自民と旧統一教会との関りが、これほど深いとは思っていませんでした。

 知っていれば、自民には入れなかった! だまされた感がハンパ無いです。 
 それなのに、しばらくは選挙がないという。ああ・・・

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リゾート・ホテル・ジャンキー [読書・ライフスタイル]

 「リゾート・ホテル・ジャンキー 贅沢な休息」 村瀬千文 (幻冬舎文庫)


 ホテル中毒者の著者が、選りすぐりのリゾート・ホテル14軒を紹介しています。
 1998年刊。ホテル・ジャーナリスト村瀬による、小説的ホテル・エッセイです。


リゾートホテル・ジャンキー―贅沢な休息 (幻冬舎文庫)

リゾートホテル・ジャンキー―贅沢な休息 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 村瀬 千文
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2022/08/22
  • メディア: 文庫



 どのホテルもすばらしい。しかし本書の本当の魅力は、そこに登場する人間です。
 ホテルを紹介する本なのに、ここで描かれているのは、さまざまな人生なのです。

 「ホテル案内」として読むと、少し嘘くさく感じると思います。
 「ホテル文学」として読むと、実にリアリティのある作品です。

 この本は、私も妻も大好きな本です。
 読みながら、いつかこんなリゾートに行きたいと、よく話したものです。

 わが妻のお気に入りは、「イヒラニ・リゾート&スパ」のバーデンダ—です。
 良いバーには良いバーデンダ—がいると言いますが、クリスがとても魅力的です。

 「あなたは、あの時赤ワインを飲んでいたお客様ですね(中略)ほら、カリフォ
 ルニアワインのオーパス・ワンの九一年もの」(P29)
 
 3年前に村瀬が訪れたときの、ワインの種類まで正確に覚えているクリス!
 このエピソードを、「嘘っぽい」と思うか「素敵」と思うかは、微妙なところ。

 当時、鬱々としていた村瀬に、クリスが出してくれたドリンクは・・・
 ますます小説っぽい展開となりますが、実にロマンティックなのです。

 時にちょっとしたロマンスが、時に心にしみいる話が、しっとりと語られます。
 エピソードの語り口がとてもうまくて、話に引き込まれました。

 ダヴォスのスキー場でたまたま出会って、一緒にミネストローネを食べた青年。
 心を残しながらも去って行き、村瀬に本を残していった、アイルランドの青年。

 たまたま知り合った、決してしゃべらないという、別格ヴィラ滞在のお忍び客。
 ニューヨークから自家用機で、フランスまでランチを食べに来たという夫婦。

 男性を相手にする仕事をしながら、自分を取り戻すために夜の海で泳ぐ青年。
 夫の浮気を知っていながら、なんとかそれに対抗しようと決心している夫人。

 しかし最も印象的だったのは、「ザ・サン・スーシ・ホテル・クラブ・&スパ」。
 村瀬に夕陽を眺める最高の場所を教えてくれた、滞在客の名物じいさんです。

 彼は、「いいか、人間はな、みーんなどっか病気なんだ」と真顔で言いました。
 そしてマッサージ小屋へ行きますが、マッサージ師の姿は見えず、彼は・・・

 いったい老人に何があったのか? いろいろと考えさせられました。
 そういう意味で、上質な短編小説です。人間の根源的な悲哀を感じさせられます。

 ところで私の記憶が定かならば、単行本はもっと写真が多かったように思います。
 文庫化にあたって写真を減らしたのだとしたら、少しもったいなかったです。

 さて、村瀬にはほかにもホテル関係の著書が多数あります。
 姉妹編「ホテル・ジャンキー」もまた、オススメの本です。

 さいごに。(日光ステーション・ホテル・2番館)

 先日の日光の旅行で私たちが宿泊したのは、日光ステーション・ホテル・2番館。
 駅のすぐ近くで便利なのにリーズナブルです。(お盆の割り増し料金でしたが)

 外観がスタイリッシュで、カッコ良かったです。部屋はやや狭かったかな。
 朝食が、想像以上においしかったです。私的には、野菜炒めが格別でした。

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