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ハリー・ポッターと賢者の石2 [20世紀イギリス文学]

 「ハリー・ポッターと賢者の石」J・K・ローリング作 松岡佑子訳(静山社文庫)


 魔法学校に通うハリーと仲間たちの冒険を描いた、ファンタジー小説の傑作です。
 無名作家が1997年に発表して大ヒット。映画もすばらしい。文庫版は二分冊です。


ハリー・ポッターと賢者の石1-2 <新装版> (ハリー・ポッター文庫)

ハリー・ポッターと賢者の石1-2 <新装版> (ハリー・ポッター文庫)

  • 出版社/メーカー: 静山社
  • 発売日: 2022/03/17
  • メディア: 文庫



 「賢者の石」とは、飲めば不老不死となる「命の水」の源となっていると言います。
 4階の廊下の巨大な三頭犬は、どうやら「賢者の石」を守っているらしいのです。

 またハリーは、スネイプがクィレルを脅している場面に遭遇し、疑いを持ちました。
 スネイプがそれを狙っているのではないか? ヴォルデモートに与えるため?
 
 夜間外出の罰として、ハリーたちは夜の森で、ハグリッドの手伝いをしました。
 そこでハリーはユニコーンの血をすする何者かを目撃し、襲われそうになりました。

 ユニコーンの血は命を長らえさせると言います。あれはヴォルデモートだったのか?
 それ以来、ハリーの額の傷がズキズキと痛み始めました。これは、警告なのか?

 しかし、校長のダンブルドアがいる限り、ヴォルデモートは何もできないはずです。
 ところがダンブルドアが、緊急呼び出しによって、魔法省に行ってしまいました。

 ヴォルデモートが狙うのは今夜。ハリーたちは決心して・・・
 ハリーが見たのは、スネイプでもなく、ヴォルデモートでもなく・・・

 後半は進めば進むほど、物語の世界にのめり込みます。
 特に最後の四分の一ほどは、手に汗を握る展開。本を離せません。

 この作品は、ファンタジー小説として、たいへんよくできています。超一流です。
 と同時に、青春小説・教養小説としても、非常に秀逸だと思います。

 ハリーはホグワーツで初めて心から信頼できる友を得て、仲間の大切さを知ります。
 彼らはまた、先生や森番などさまざまな人間と関わりながら成長していきます。

 たとえば、マルフォイに「付き合う友達は選ぶべきだ」と言われたときのハリー。
 「友達なら自分で選べる」と、きっぱりと言って、マルフォイの握手を断りました。

 トロールが現れた時には、規則を破って、ハーマイオニーを救出に向かいました。
 一方、模範生のハーマイオニーが、ハリーとロンをかばって、嘘をつきました。

 ラスト近く(1-2 P210)、ハーマイオニーがハリーに言った言葉は、印象的でした。
 「頭がいいなんてなによ! もっと大切なものがあるのよ・・・友情とか勇気とか」

 そして、校長のダンブルドアはしばしば、とても核心的なことを言います。 
 たとえば終盤の次の言葉は、作者が一番伝えたかったメッセージではないか。

 「それほどまでに深く愛を注いだということが、たとえ愛したその人がいなくなって
 も、永久に愛されたものを守る力になるのじゃ。」(1-2 P231)

 さて、映画版を久々に見ました。嬉しいことに原作をほとんど変えていません。
 上記のような細かなエピソードも、ちゃんと盛り込まれていました。

 続く「ハリー・ポッターと秘密の部屋」も読みたくなりました。
 しかし、全7巻を制覇するのは、少ししんどいです。映画で見ようか・・・

 さいごに。(USJに行きたい)

 USJなぞ、これまで全く興味がありませんでした。
 しかし、ハリー・ポッター・エリアがあると聞いて、急に興味を持ちました。

 特に「百味ビーンズ」(1800円)が気になっています。おみやげに買いたい!
 「ゲロ味」や「耳くそ味」が、本当に入っているのでしょうか?

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ハリー・ポッターと賢者の石1 [20世紀イギリス文学]

 「ハリー・ポッターと賢者の石」J・K・ローリング作 松岡佑子訳(静山社文庫)


 魔法学校に通うハリーと仲間たちの冒険を描いた、ファンタジー小説の傑作です。
 1997年に発表されてから世界中で読まれ、2001年に映画化されて大流行しました。


ハリー・ポッターと賢者の石 1-1(静山社ペガサス文庫) (ハリー・ポッターシリーズ)

ハリー・ポッターと賢者の石 1-1(静山社ペガサス文庫) (ハリー・ポッターシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 静山社
  • 発売日: 2014/03/05
  • メディア: ペーパーバック



 0歳で両親を失ったハリー・ポッターは、ダーズリー家に引き取られて育ちました。
 11歳の誕生日目前のハリーに、ホグワーツ魔法学校から、入学許可証が届きました。

 魔法使い嫌いの養父母は、ハリーの魔法学校入学をなんとか阻止しようとしました。
 しかし、森番の大男ハグリッドが迎えに来て、隠された真実をハリーに伝えました。

 優れた魔法使いだった両親は、悪の魔法使いヴォルデモートに殺害されたのでした。
 しかし、赤ん坊だったハリーは、なぜかヴォルデモートの魔法を跳ね返したのです。

 そのとき、ハリーの額には、傷が残されたようです。
 そして、ハリーは「生き残った男の子」として、魔法界では有名人だったのです。

 ダーズリー家で虐待に近い扱いを受けていたハリーに、新しい道が開けました。
 孤独だったハリーに、魔法学校では、ロンやハーマイオニーらの仲間ができました。

 入学式では、校長ダンブルドアが、「森と4階の廊下には入るな」と言いました。
 偶然そこに入ったポッターたちは、三頭犬が何かを守っていることを知りました。

 三頭犬が守っているものは何か? 誰からそれを守っているのか?
 トロールが出現したとき、いちはやく4階に向かったスネイプ。いったいなぜ・・・

 という内容紹介は、不要だったかもしれません。
 とても多くの人に読まれてきたので。

 だいたい、「賢者の石」って言ったらハリポタだろ、という人が多いです。
 甥っ子も小さかった時、本書の単行本を、とても熱心に読んでいました。

 あの頃は、児童文学なのにやたらと分厚いんだなあ、と感心したものでした。
 いやいや、児童文学と侮るなかれ。大人が読んでも充分楽しめる内容でした。

 映画の出来がすばらしかったので、「映画を先に見ました」という人も多いです。
 私も実はそのくちで、内容は知っていましたが、それでもとても面白かったです。

 ストーリーにはちゃんと伏線があって、そして、意外な展開の仕方をします。
 そう、なんてったって、スネイプ先生ですよ、第一巻を面白くしているのは!

 映画版ハリー・ポッター・シリーズは、全8話を、家族で少しずつ見てきました。
 終盤、内容が暗くなったところが、少し残念な気がします。

 また、ハリーがハーマイオニーとくっつかなっかたことが、想定外でした。
 全巻を通してみると、三人の子役さんたちの成長がたどれて面白いですね。

 さいごに。(魔法の杖)

 「ハリー・ポッター」の映画にはまっていたとき、娘と一緒に杖を作りました。
 手作りの杖を使って、魔法の呪文を唱えたものです。ああ、懐かしい。
 「魔法の杖」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2014-10-25

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賢者の石3(コリン・ウィルソン) [20世紀イギリス文学]

 「賢者の石」 コリン・ウィルソン作 中村保男訳 (創元推理文庫)


 意識を無限に拡大する能力を得た青年が、人類進化の謎の解明に挑むSF小説です。
 すでに2回にわたって、紹介してきました。
 「賢者の石」1=https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-08-18
 「賢者の石」2=https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-08-21


賢者の石 (創元推理文庫 641-1)

賢者の石 (創元推理文庫 641-1)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1971/06/01
  • メディア: 文庫



 ヴァチカン図書館で、マヤの歴史と伝統が記された新しい文献が発見されました。
 「私」とリトルウェイは、さっそくマイクロフィルムにして送ってもらいました。

 そこには、星から降臨したイッグなる者の、地球におけるエピソードがありました。
 イッグが地球で生物を生み出し、「地の主」どもがイッグを地下に幽閉したという。

 しかし、イッグが生んだ生物は、「古きものども」が支配できないほど増えました。
 そこで「古きものども」は、人間を生み出して、自分たちの下僕としたと述べます。

 その後ふたりは、エヴァンジェリスタが書いた「世界最古史」なる本を知りました。
 その中に出てくる「ネクレミコン」は、「ネクロノミコン」のことのようなのです。

 そして「ネクレミコン」にも、次のようなことが記されているのだそうです。
 星から来た「闇の者ども」が、人間を創り出して自分たちの下僕とした、と。

 「ネクロノミコン」は、ラヴクラフトが創造した書物だと考えられてきました。
 しかし、「ネクロノミコン」のモデルとなった書物が、実在しているらしいのです。

 そのモデルと考えられているものの一つが、「ヴォイニッチ原稿」なるものです。
 それを翻訳したラング博士は、それを「ネクロノミコン」の一部だと考えました。

 そして、残りの原稿が、イギリスにあると信じるようになりました。
 というのも、アーサー・マッケンが、それを読んでいることは確実だから・・・

 というように、終盤は怒涛の展開です。
 しかも、完璧なクトゥルー神話です。

 「ネクロノミコン」はどこにあるのか? そこに書かれていることは真実なのか?
 人類は「古きものども」の下僕なのか? 「古きものども」は今どこにいるのか?

 「私」が、玄武岩の小像をある方法で内視すると、ムー大陸の光景が現れ・・・
 ムー大陸はいかにして統治されていたか? そして、いかにして滅んだのか?

 さらに、「私」が水晶を通して幻視した光景は・・・
 「古きものども」はいかに人間を使ったか? いかにして地下へもぐったのか?

 という具合に、クトゥルー神話マニアでなくとも、夢中になって読める本です。
 「ムー民」には絶対オススメの作品です。

 ただし終盤は、いろいろと盛り込まれすぎていて、頭が飽和状態になりました。
 その結果、「古き者ども」がどういう存在だったのか、結局分かりませんでした。

 どなたか、分かりやすく解説してほしいです。
 あるいは、分かりやすく解説してあるHPなどがあったら、教えてください。

 さいごに。(QRコードの恐怖)

 先日、仕事の研修会に参加したとき、その場で事後アンケートをやらされました。
 それがなんと、QRコードで読み取ってサイトに飛び、入力する形式でした。

 「QRコードが読めません」と言ったら、「そんな人いるの?」という周囲の反応。
 みんながみんなQRコードができるわけじゃないんだよ!

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賢者の石2(コリン・ウィルソン) [20世紀イギリス文学]

 「賢者の石」 コリン・ウィルソン作 中村保男訳 (創元推理文庫)


 意識を無限に拡大する能力を得た青年が、人類進化の謎の解明に挑むSF小説です。
 1971年刊。第Ⅰ部「絶対の探求」、第Ⅱ部「夜の涯への旅」の二部構成です。


賢者の石 (創元推理文庫 641-1)

賢者の石 (創元推理文庫 641-1)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1971/06/01
  • メディア: 文庫



 「私」は、前頭前部皮質に手術を施してから、意識が拡大するのを感じました。
 さらに、過去に遡ってものごとを把握する「時間ビジョン」が可能になりました。

 リトルウェイも手術を施し、その後、ふたりでストーン・ヘンジを訪れました。
 パンフレットを読む「私」の心に、悪の気配とともに、ある光景が浮かびました。

 それは、身の丈三メートルを越す、猿に似た巨人が平らな石を引きずっている様子。
 調べてみると、中国やジャワで、巨人の化石が見つかっていることが分かりました。

 リトルウェイの弟が、何年か前にトルコから、玄武岩の小像を持ち帰っていました。
 「私」はそれに触れて悪の匂いを感じ、それが50万年前のものだと直感しました。

 「私」の、ものごとを把握する能力(内視力)は、どんどん発達していました。
 あるとき突如、故意に正体を隠している何者かの存在を、はっきりと感じました。

 「私」が玄武岩の小像の起源を探ろうとすると、急に透視力が妨害されたのです。
 何者かが、自分たちの調査を、目に見えない仕方で妨げようとしているようで・・・

 と、「ムー民」的には心躍る展開です。また、第Ⅱ部からテンポがよくなりました。
 さらに、謎が謎を呼び、様々な謎がつながっていきます。

 マヤ文明衰退の謎と、その背後にあった「大いなる秘密」・・・
 シルベリーの埋葬塚の奥深くで眠り、人類の詮索を嫌がる謎の存在・・・

 とうとう「私」とリトルウェイは、ある結論に達しました。
 人間が出現するはるか昔に、地球上には知性を持った生物が存在したのではないか?

 その生物とは何か? それは今どこにいるのか? それが調査を妨害しているのか?
 その謎を解くヒントは、怪奇作家ラヴクラフトの書いた「古き種族」の伝説に・・・

 「ラヴクラフトによれば、『古きものども』がかつて遥かな星より来たり、一時、地
 球を支配して、巨石をもって巨大な都市を築いたが、黒い魔術を使いすぎて自滅し、
 現在は地下に”眠って”いるという。」(P312)

 この展開に、私はたまげました。なんと、ラヴクラフトが出てくるとは!
 私は知りませんでした。この作品もまた、クトゥルー神話のひとつだったとは!

 本書「序文」から、ウィルソンがクトゥルー神話を書くに至った経緯が分かります。
 ダーレス氏に「ラヴクラフトばりの作品を書いてみろ」と言われたからなのだ、と。

 終盤に入ると、クトゥルー神話でおなじみの「ネクロノミコン」も登場します。
 狂ったアラビア人アブドル・アルハズラットが著したとされる、架空の魔道書です。

 また、「古きものども」はアーサー・マッケンからの借用だとも書いてありました。
 マッケンには、「地下に生きる不思議な人々」についての物語があるのだそうです。

 アーサー・マッケンの代表作は、ぜひこの次に読んでみたいと思っています。
 特に、クトゥルー神話に影響を与えた「パンの大神」は、絶対に読みたいです。

 さて、本書「賢者の石」は、ラストに近づくと、どんどんテンションが上がります。
 いったいどんな結末が待っているのか? とても楽しみです。

 さいごに。(300mハードル)

 300mハードルという種目に出場しました。
 47秒もかかってしまいました。(45秒くらいで走りたかった)

 ハードルの高さは400mHと同じですが、久々だったので、とても高く感じました。
 走り終わったあと、股関節が痛くて痛くて・・・

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賢者の石1(コリン・ウィルソン) [20世紀イギリス文学]

 「賢者の石」 コリン・ウィルソン作 中村保男訳 (創元推理文庫)


 意識を無限に拡大する能力を得た青年が、人類進化の謎の解明に挑むSF小説です。
 主人公による仮説の説明が多く、小説というよりオカルト研究書のような作品です。


賢者の石 (創元推理文庫 641-1)

賢者の石 (創元推理文庫 641-1)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1971/06/01
  • メディア: 文庫



 主人公の「私」は13歳のとき、45歳のライエル卿と出会って意気投合しました。
 ライエル卿に見込まれた「私」は、彼の家に住み、一緒に様々な研究をしました。

 12年後にライエルが死ぬと、遺産を得て、生涯を研究に捧げる環境が整いました。
 ちょうどその頃、科学というものに対する「私」なりの考え方がまとまりました。

 すべての科学は、人間を現在から引き離し、遠くから眺めさせる試みである、と。
 現在から自由になるために、人間が求めているのは、拡大された意識である、と。

 しかし、意識を拡大するためには、どうしたらよいのか?
 そのヒントは、リトルウェイ卿と知り合い、一緒に研究するうちに手に入り・・・

 文字が小さくて、途中難解な部分もあって、なかなか進みません。
 時速30ページほどです。しかし、とても興味深い内容なので、全く飽きません。

 特に、脳髄を損傷した青年ディックが登場した辺りから、急に面白くなりました。
 ディックは脳髄損傷後、恍惚状態を続けていて、千里眼を手に入れたようで・・・

 手術で、特殊な合金を大脳前頭葉部に入れて電極を流すと、恍惚状態となり・・・
 レスターが手術を施すと、数千年先の未来を絶えず意識するようになって・・・

 と、意識の拡大につながる場面は、「ムー民」的にとてもワクワクします。
 「私」とリトルウェイが、人類進化の謎の究明を始めてからは、本が置けません。

 拡大された意識で、ふたりはいったい何を見つけるのか?
 人類の進化において、いったいどのような謎があったのか?

 第Ⅰ部「絶対の探求」は、「私」が意識を拡大させるまでを描いています。
 読みながら、ついつい作者コリン・ウィルソンと主人公を重ねてしまいました。

 「人間には現実から離脱して意識が広がる瞬間があり、それを価値体験と呼ぶ。」
 「価値体験においては、人間の意識の光線の幅が広がり、広大な空間を照らす。」

 本作には、当時のコリン・ウィルソンの考えが、惜しげもなく盛り込まれています。
 1971年刊の「オカルト」もまた、参照したい評論です。


オカルト 上 (河出文庫 ウ 2-11)

オカルト 上 (河出文庫 ウ 2-11)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2022/08/16
  • メディア: 文庫



 さいごに。(2回食べた佐野ラーメン)

 日光に行くとき、下りの佐野SAに寄って、朝食に佐野ラーメンを食べました。
 日光から帰るとき、上りの佐野SAに寄って、夕食に佐野ラーメンを食べました。

 ちじれた麺が、クセになります。スープもちょっと違います。
 今度はSAではなく、佐野市街のお店で食べてみたいです。
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瓶詰の地獄 [日本の近代文学]

 「瓶詰の地獄」 夢野久作 (角川文庫)


 夢野の短編の代表作「瓶詰の地獄」「死後の恋」など、全7編の短編集です。
 ペンネームは、福岡地方の方言で夢想家を意味する「夢の久作」からきています。


瓶詰の地獄 (角川文庫)

瓶詰の地獄 (角川文庫)

  • 作者: 夢野 久作
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2009/03/21
  • メディア: 文庫



 タイトル作「瓶詰の地獄」は、海岸に流れ着いた瓶の中の手紙で構成されています。
 瓶は3つあり、それぞれには、無人島に流れ着いた兄妹の状況が描かれています。

 第一の手紙には、ふたりがしっかり抱き合ったまま身を投げる、と書かれています。
 それは「犯した罪のつぐない」というが・・・いったいこの兄妹に何があったのか?

 とても完成度の高い作品だとは思いますが、私的には少しもの足りなかったです。
 というのも、第一の手紙で内容があらかた想像できてしまったためです。

 「死後の恋」こそ、私は夢野久作の短編の、最高傑作だと思います。
 「キチガイ紳士」と呼ばれるロシア人が語る、ロマノフ王家の末路に関わる話です。

 反革命軍に身を投じたコルニコフは、リヤトニコフという少年兵士を知りました。 
 あるときリヤトニコフは、身分を証明する数々の宝石類をコルニコフに見せました。

 実はリヤトニコフは王家の末裔で、血統を絶やさぬために家から出されたのでした。
 その宝石類は、子孫を残すために親から与えられた、大事な資本だと言うのです。

 なぜリヤトニコフは、自分にこんな大事な打ち明け話をしたのか?
 宝石類への欲望で目がくらんだ彼には、リヤトニコフの気持ちが想像できません。

 彼は、リヤトニコフが死んだら宝石類を手に入れようと考え、斥候に志願して・・・
 リヤトニコフの秘密とは? そして、リヤトニコフのある思いとは?

 「鉄鎚(かなづち)」もまた、読み応えのある作品でした。
 父が「悪魔」と呼んでいた相場師の叔父に、弟子入りした「私」の物語です。

 「私」の一家は、叔父によってめちゃくちゃにされ、父は叔父を憎んで死にました。
 私は父から、「もし叔父に会ったら鉄鎚で脳天をぶち割れ」と、言われていました。

 ところが父の死後、どこからともなく現れた叔父に、私は養われるようになります。
 そして「私」の電話番のおかげで、叔父の財産はどんどん増えていくのです。

 そこへ、伊奈子というさらに悪魔的な女がやってきて・・・
 「私」は、叔父が身を亡ぼすことを知りながら、冷然とそれを観察し・・・

 「ホントウの悪魔とは、自分を悪魔と思っていない人間を指して言うのであるーー
 自分では夢にも気付かないまんまに、他人の幸福や生命をあらゆる残忍な方法で否
 定しながら、平気の平左で白昼の大道を闊歩していくものが、ホントウの悪魔でな
 ければならぬ」(P115)

 面白い作品ですが、「伊奈子」が登場して、話が複雑になりすぎたように思います。
 伊奈子を登場させなくても、充分に味わい深い作品になったと、私は思うのですが。

 さて、夢野久作の短編におけるマイベストは、なんといっても「一足お先に」です。
 タイトルがサイコー。しかも、次のような謎めいた言葉から物語が始まります。

 「トックの昔に断り棄てられた、私の右足の幽霊が私に取り憑いて、私に強盗、強
 姦、殺人の世にも恐ろしい罪を犯させている事がわかったとしたら、私は一体どう
 したらいいのだろう。」(P175)

 主人公は、病気で右脚を切断して、外科病院に入院している新東という青年です。
 新東は、無くなった脚に痛みを覚えたり、その脚が歩き回る夢を見たりしています。

 そんな折、副院長から脚を失った後に夢遊病になった例を聞き、心配になりました。
 夢中遊行を起こさないため、今後は脚の夢を見ないようにと考えたりしました。

 ところがある朝、副院長に「歌原未亡人は貴方が殺したのでしょう」と言われ・・・
 そう言われて、自分が夜中に歌原未亡人を殺し、宝石類を盗んだ記憶が蘇って・・・

 と、非常にスリリングな展開をします。しかも、最後のどんでん返し!
 私のイチオシの夢の作品です。怪奇小説的な味わいのある、ミステリー作品です。

 さいごに。(スコーンセット)

 日光の中禅寺湖畔にある英国大使館別荘で、スコーンのセットを食べました。
 絶景を前に、家族とのティータイムは格別。実にぜいたくなひとときでした。

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少女地獄(夢野久作) [日本の近代文学]

 「少女地獄」 夢野久作 (角川文庫)


 病的な嘘つき姫草ユリ子の悲劇を描いた「何でも無い」など、3編の短編集です。
 「ドグラ・マグラ」刊行の翌年、最晩年の1936年に出た書簡形式の短編小説集です。


少女地獄 (角川文庫)

少女地獄 (角川文庫)

  • 作者: 夢野 久作
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 1976/11/29
  • メディア: 文庫



 「少女地獄」は、「何でも無い」「殺人リレー」「火星の女」から成っています。
 「何でも無い」は、姫草ユリ子という女が自殺した、ということから始まります。

 昭和8年5月、姫草ユリ子と名乗る19歳の少女が、臼杵耳鼻科医院を訪れました。
 院長の臼杵は、ユリ子を看護婦として採用し、彼女のおかげで医院は繁盛しました。

 あるときユリ子は、以前白鷹先生のもとで働いていたと、臼杵に告げました。
 そして、そのころからユリ子の言葉に、ほころびが生じ始めたのです。

 白鷹先生と会う約束をしながらも、そのたびに相手の都合で会うことができず・・・
 ようやく会うことができましたが、白鷹先生の様子はどこかおかしくて・・・

 ユリ子の嘘を最初に見抜いたのは、臼杵の妻でした。さすが、女の勘は鋭いですね。
 しかし妻は、怒るどころか彼女に共感し、同情すらしています。

 「みんなあの娘の虚栄だと思うわ。そんな人の気持、あたし理解ると思うわ(中略)
 あの人は地道に行きたい行きたい。みんなに信用されていたいいたいと、思い詰めて
 いるのがあの娘の虚栄なんですからね。そのために虚構を吐くんですよ」(P47)

 自分が打ち立てた嘘の世界が壊されないよう、ユリ子はさらに大きな嘘をつきます。
 そうして自分を守るために、命がけで嘘をつくユリ子は、ある意味けなげでした。

 「如何なる悪党、または如何なる芸術家も及ばない天才的な、自由自在な、可憐な、
 同時に斃れて止まぬ意気組を以て、冷厳、酷烈な現実と闘い抜いて来たか。」(P92)

 ところで、タイトルの「何でも無い」とは、どういうことでしょうか。
 嘘で塗り固めた殻を外していくと、そこには「何にも無い」ということでしょうか。

 それがバレてしまったとき、ユリ子には死ぬという選択肢しか残っていませんでした。
 まさに、少女が地獄へ進んで落ちていくような物語でした。

 「火星の女」は、女学校の近くで、少女の焼死体が発見されるところから始まります。
 その後女学校の校長は発狂し、大坂で火星の女を探しているところを保護されました。

 校長のもとにはある手紙が来ていて、それが精神的なダメージとなっていたのです。
 差出人は「火星さん」というあだなの卒業生で、焼死体も彼女のものでした。

 事件に続いて、学校の女性教諭が自殺し、書記が大金を持って失踪し・・・
 さらに教育行政官まで辞任して・・・

 「私は、校長先生と御一緒に、腐敗、堕落しております現代の自分勝手な、利己主義
 一点張の男性の方々に、一つの頓服薬として「火星の女の黒焼」を一服ずつ差し上げ
 たいのです。」(P134)

 「火星の女」の手紙には何が書いてあったのか?
 「火星の女」は、いったいどんなことをしたのか?

 「私の心の底の底の空虚と、青空の向こうの向こうの空虚とは、全くおんなじ物だと
 言う事を次第次第に強く感じて来ました。そうして死ぬるなんて言う事は、何でもな
 い事のように思われて来るのでした。」(P142)

 あのような大胆な復習をさせたのは、空虚からくるマイナスエネルギーなのでしょう。
 表面のきれいごとと、裏面の汚らわしさ。まさに、校長は空虚の象徴的存在でした。

 「何でもない」も「火星の女」も、とても鮮烈な印象を残す作品でした。
 それに比べて、「殺人リレー」はページ数も少なく、やや見劣りがしました。

 「殺人リレー」は、バスの女車掌のもとに来た、何枚もの手紙で構成されています。
 新高という運転手は殺人者で、女車掌と次々と関係を持って殺していくというが・・・

 新高を警戒し、友の仇を取ろうとしながらも、なぜかトミ子は惹かれてしまいます。
 トミ子はいかにして仇を取ったのか? それを成し遂げたあとの、意外な展開とは?

 同時収録の「童貞」は、主人公がバカバカしくて面白かったです。
 自分を天才音楽家だと思っている青年は、肺病やみのため死に場所を求めています。

 「タッタ一人で大地に帰るべく姿を晦ましてしまった彼の唯一の誇り・・・世にも
 尊い・・・世にもみじめな童貞の誇り・・・」(P191)

 そして彼は、自分を殺すのは女でなければならぬ、と考えています。
 そこへやってきた美しい令嬢は・・・泣けるような、笑えるような、結末でした。

 さいごに。(日光に行かずして)

 「日光に行かずして結構と言うなかれ」と言われています日光、今回が初訪問です。
 妹が日光に住んでいるので、お盆休みを使って、家族で行ってきました。

 奥日光の、戦場ヶ原が良かったです。やっぱり、自然の中で歩くのは気持ちいい!
 写真を撮りまくりました。今度は秋の紅葉シーズンに来たいです。

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木に学べー法隆寺・薬師寺の美ー [哲学・歴史・芸術]

 「木に学べー法隆寺・薬師寺の美ー」 西岡常一 (小学館文庫)


 法隆寺と薬師寺の宮大工棟梁の著者が、木を組むことの奥義を語り尽くした本です。
 西岡は、妥協を許さぬ厳しさから「法隆寺の鬼」と言われた法隆寺最後の宮大工です。


木に学べ 法隆寺・薬師寺の美(小学館文庫)

木に学べ 法隆寺・薬師寺の美(小学館文庫)

  • 作者: 西岡 常一
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2003/11/07
  • メディア: 文庫



 「私どもの、仕事に対する考え方やおもい入れは、神代以来の体験の上に体験を重ね
 た伝統というものをしっかり踏まえて、仕事に打ち込んでますのやがな。」(P272)

 そう語る西岡棟梁の言葉には、信念とプライドがあります。
 木を知り尽くした西岡棟梁の、その語り口にしびれます。

 「このことにお釈迦様は気がついておられた。『樹恩』ということを説いておられる
 んですよ、ずっと昔に。それは木がなければ人間は滅びてしまうと。人間賢いとおも
 っているけど一番アホやで。動物は食う量にしても、木や自然とうまくつりあっとる。
 それが人間はすぐ利益をあげようとする。」(P21)

 「自然に育った木ゆうのは強いでっせ。なぜかとゆうたらですな、木から実が落ちま
 すな。それが、すぐ芽出しませんのや。出さないんでなくて、出せないんですな。ヒ
 ノキ林みたいなところは、地面までほとんど日が届かんですわな。/こうして、何百
 年も種はがまんしておりますのや。それが時期がきて、林が切り開かれるか、周囲の
 木が倒れるかしてスキ間ができるといっせいに芽出すんですよな。今年の種も去年の
 種も百年前のものも、いっせいにですわ。」(P22)

 なるほど! 我々は木に学ばなければいけません。
 西岡棟梁の語る「木」には、崇高さがあります。

 さて、西岡棟梁に案内され、法隆寺と薬師寺を巡るのは、ぜいたくな時間でした。
 写真が多いので、本書ではとてもリアルな疑似体験ができました。

 面白かったのは、薬師寺金堂の屋根の上の鴟尾についての説明です。
 私はあれを、大きな「魚の尾」で、火事から建物を守るものだと学んできました。

 西岡棟梁は、あれを「鳥の尾」だと言います。
 屋根の反り返りが「鳥の翼」を表し、鴟尾が「鳥の尾」を表すのだと言います。

 つまり、金堂の屋根全体が「二羽の鳥が抱き合ってキスをしている形」だそうです。
 そして、王者は天に近づくという天帝思想を表したものなのだそうです。

 東塔は三重目の軒が短いとか、先が南に倒れているとかという指摘もありました。
 また、次のような言葉にも出会い、改めて薬師寺を訪れたくなりました。

 「東塔が歪んだまま立っているのに、西塔が倒れたということになったら作ったわ
 たしは生きてはいられないですな。腹切って死ななければなりませんな。」(P166)

 「わたしの薬師寺に対する考えは、東塔の上にある水煙にあります。/天人が舞い
 降りてくる姿を描いてありますが、天の浄土をこの地上に移そうという考えですな。」
 (P248)

 ほか、この本は名文の宝庫でもあります。棟梁の心意気に、心を打たれます。
 木や建築のことばかりではありません。人生についても考えさせられます。

 「初め器用な人はどんどん前に進んでいくんですが、本当のものをつかまないうち
 に進んでしまうこともあるわけです。だけれども、不器用な人は、とことんやらな
 いと得心ができない。こんな人が大器晩成ですな。頭が切れたり、器用な人より、
 ちょっと鈍感で誠実な人のほうがよろしいですな。」(P186)

 なるほど。西岡哲学とでも呼べるようなものが、ここにはあります。
 建築家だけでなく、すべての人に手に取ってほしい一冊です。

 さいごに。(寄付したかった!)

 法隆寺のクラウドファンディングが、想像以上の反響を呼んだことを知りました。
 2000万円の目標額に対して、1億5000万円を上回る額が集まったのだそうです。

 法隆寺のためならお金を出したい、という人は多かったでしょう。
 私も参加したかった! 知ったのが少し遅すぎました。

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ドグラ・マグラ2 [日本の近代文学]

 「ドグラ・マグラ(下)」 夢野久作 (角川文庫)


 病院に監禁されていた記憶喪失の青年にまつわる、奇怪な事件を描いた物語です。
 1935年刊行。日本探偵小説の三大奇書のうちのひとつ。下巻もカバーがサイコー。


ドグラ・マグラ(下) (角川文庫 緑 366-4)

ドグラ・マグラ(下) (角川文庫 緑 366-4)

  • 作者: 夢野 久作
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 1976/10/13
  • メディア: 文庫



 若林教授は、呉一郎による実母絞殺と花嫁絞殺事件を、独自に調査していました。
 そして、呉一郎に絵巻物を見せ、精神異常を起こさせた犯人がいると確信しました。

 呉一郎、伯母八代子、八代子の常雇い農夫、如月寺住職らから聴き取りをした結果、
 いやそのずっと前から、若林教授は絵巻物の祟りについて、知っていたようです。

 呉家の祖先なにがしが、最愛の夫人に死別したのを悲しみ、その屍を写生しました。
 ところが半分も描かないうちに、亡きがらは腐乱して、白骨となってしまいました。

 その絵巻は、弥勒座像の胎内に納めましたが、血縁の男たちは次々と狂いました。
 そこで今から百余年前の当主が、絵巻を焼いて灰にしたと言われていましたが・・・

 誰がそこから絵巻を盗んだのか? 誰がその絵巻を使って呉一郎を狂わせたのか?
 いったい何のために呉一郎は狂わされたのか? 「私」は本当に呉一郎なのか?

 事件がいよいよ大詰めに近づいたと思ったら、死んだ正木教授が出てきました。
 しかも、煙に巻くようなことばかり言います。正木教授の方がよほど狂人に近い。

 正木教授がペラペラとやるうちに、真相はどんどん遠ざかっていく気がします。
 正木教授がヘンなことばかり言っているのは、何かを隠しているからのようです。

 正木教授が打ち明けた、怪事件の犯人とは?
 また、呉一郎の本当の父親は誰だったのか?

 途中、物語の舞台は1000年前の中国に移って、興味深い展開をしました。
 呉(くれ)家の祖先は、1000年前の呉青秀(ごせいしゅう)につながりました。

 玄宗皇帝の時代、呉青秀が皇帝を諫めるために、自分の妻の死体を写生し・・・
 呉一郎も呉モヨ子も、1000年前の出来事をもう一度なぞっているだけなのか?

 知的好奇心に駆られる一方で、ぐじゃぐじゃ詰め込みすぎという感じもしました。
 だから、いろいろな人が謎解きをしています。だからこそ「奇書」なのでしょう。

 たとえば「アホダラ経」を削って、150ページほど短くしてほしかったです。
 「まんがで読破」版では、そのような工夫がしてあって読みやすいのだそうです。


ドグラ・マグラ (まんがで読破)

ドグラ・マグラ (まんがで読破)

  • 作者: 夢野久作
  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2008/10/01
  • メディア: 文庫



 さて、夢野久作にはほかに、いくつかの短編の名作があります。
 中でも「少女地獄」「瓶詰めの地獄」などは有名です。


少女地獄 (角川文庫)

少女地獄 (角川文庫)

  • 作者: 夢野 久作
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 1976/11/29
  • メディア: 文庫



瓶詰の地獄 (角川文庫)

瓶詰の地獄 (角川文庫)

  • 作者: 夢野 久作
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2009/03/21
  • メディア: 文庫



 さいごに。(うなぎ丼)

 久しぶりにうな丼を食べました。ダブルを注文しました。おいしかったです。
 ただし、中国産。日本産は、値段が倍以上。とても食べられません。

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ドグラ・マグラ1 [日本の近代文学]

 「ドグラ・マグラ(上)」 夢野久作 (角川文庫)


 病院に監禁されていた記憶喪失の青年にまつわる、奇怪な事件を描いた物語です。
 1935年刊行。日本探偵小説の三大奇書のうちのひとつです。カバーがすばらしい。


ドグラ・マグラ(上) (角川文庫 緑 366-3)

ドグラ・マグラ(上) (角川文庫 緑 366-3)

  • 作者: 夢野 久作
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 1976/10/13
  • メディア: 文庫



 ある日、目覚めた「私」は監禁されていて、自分の名前さえ思い出せませんでした。
 部屋にも見覚えがありません。すると隣から、痛々しい女の声が聞こえてきました。

 「お兄さま、お隣の部屋にいらっしゃるお兄様」「あたしです。お兄様の許嫁だった」
 「結婚式を挙げる前の晩の真夜中に、お兄様のお手にかかって死んでしまったのです」

 やがて若林という巨大な紳士が現れ、ここが九州大学精神病科の七号室だと言います。
 そして「私」が、狂人の解放治療という実験の研究材料となっていると言うのです。

 「私」の記憶が戻ったときには、空前絶後の犯罪事件の真相が分かるのだそうです。
 その事件は、ある青年が従妹との結婚式の前の晩に、相手を絞殺したというものです。

 「私」は、自分を思い出させるために、病院の中のある部屋に連れて行かれました。
 さまざまな資料の中に、「ドグラ・マグラ」という原稿があって・・・

 「私」は誰なのか? なぜ記憶がないのか? なぜ病院にいるのか?
 隣の少女は何者なのか? 若林教授はいったい何をしたかったのか?

 「この小説を読破したものは、必ず一度は精神に異常をきたす」と言われています。
 ある意味その通りです。読み始めたら続きが気になって、気が狂いそうになりました。

 ところが、上巻を読み終えても、少しも謎が解けていないのです。
 どういうことなのか気になって気になって、気が狂いそうになっています。

 謎の解明のヒントは、若林教授の前任者である正木教授の残した文書にあるようです。
 「胎児の夢」「遺言書」など6つの文書があり、作品の半分ほどを占めています。

 中でも「胎児の夢」という論文は、非常にユニークで印象に残りました。
 それは、胎内の胎児は10か月の間、数十億年の生物進化を夢に見る、というものです。

 そして胎児は、先祖の行ったさまざまな体験を、記憶として持っているというのです。
 このことは、「私」の事件の謎の解明において、とても重要な伏線となっています。

 また「遺言書」は、正木教授が自殺の理由を、映画のシナリオ風に説明したものです。
 「呉一郎」という名前が、実母と許嫁を絞殺した嫌疑者として、初めて登場します。

 そして、どうやら「呉一郎」は、物語の主人公「私」のことのようなのです。
 さらに、許嫁の「モヨ子」というのは、隣の部屋にいる少女のことのようなのです。

 しかし、あくまでも「そのよう」なのであり、はっきりしたことが分かりません。
 ふと気が付くと読者も「私」同様、犯人は自分じゃないかと考えてしまう仕掛けです。

 さて、正木教授の6文書のうち、もっとも読みにくいのが最初の「アホダラ経」です。
 「チャチャラカ、チャカポン」のリズムで、ぐじゃぐじゃと30ページ以上続きます。

 この部分で挫折する人が多いのだそうですが、実は効果的な攻略法があります。
 それは、ユーチューブの朗読を2倍速で聞きながら読む、という方法です。

 この朗読は、とてもうまいです。特に「アホダラ経」は節回しがすばらしいです。
 ぜひ聞いてください。「アホダラ経」は、5:11:40(5時間11分40秒)から始まります。

 ちなみにこの朗読をすべて聞くと、26時間以上になります。2倍速でも13時間です。
 語りの西村俊彦さん、よくぞやってくれました。本当にいい仕事をしています。



 最後になりましたが、「ドグラ=マグラ」について、次のような説明がありました。
 「切支丹伴天連の使う幻魔術のことを言った長崎地方の方言だそう」と。(P93)

 さいごに。(300m走)

 記録会で、300m走という種目に出ました。炎天下の中で走りました。
 タイムは41秒70。40秒ジャストを狙っていましたが、だいぶ甘かった!

 最近、おなかのたるみと、足腰の弱体化が、とても気になっています。
 もう少し体を絞って、脚力をつけて、せめて40秒台で走れるようにしたいです。

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