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ヴェニスの商人 [17世紀文学]

 「新訳 ヴェニスの商人」 シェイクスピア作 河合祥一郎訳 (角川文庫)


 友人のため体の肉1ポンドをかたに金を借りた、ヴェニスの商人をめぐる悲喜劇です。
 シェイクスピアの中でも、とても人気のある作品で、金貸しシャイロックは有名です。


新訳 ヴェニスの商人 (角川文庫)

新訳 ヴェニスの商人 (角川文庫)

  • 作者: シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/10/25
  • メディア: 文庫



 ヴェニスの貿易商アントーニオは、積荷満杯の船をいくつも行き来させていました。
 友人のバサーニオは、貴婦人に求婚するため、アントーニオに金を借りに来ました。

 全財産が海の上を漂うアントーニオは、ユダヤ人シャイロックに信用借りをします。
 アントーニオの体の肉1ポンドをかたに、無利子で金を貸すという条件で・・・

 この作品は基本的に、シャイロック=復讐の鬼であり、悪役として演じられました。
 しかし、シャイロックの切実な訴えを読むと、彼こそ被害者だと、思えてきました。

 「ユダヤ人には目がないのか? 手がないのか。内臓が、手足が、感覚が、愛情が、
 喜怒哀楽がないとでもいうのか? キリスト教徒とどこが違う? 同じ食い物を食
 い、同じ武器で傷つき、同じ病気に罹り、同じ薬で治り、冬も夏も同じように暑が
 ったり寒がったりするじゃないか?」(P70)

 実際19世紀になると、シャイロックを悲劇の主人公とすることもあったそうです。
 キリスト教徒の偽善性を指摘した批評家が現れたりします。(「訳者あとがき」)

 だいたい、アントーニオも良くないですよ。
 バサーニオのような奴に、カネを貸すなんて。

 バサーニオは、カネもないのに派手に暮らして、身代をつぶしてしまった男です。
 しかも働いて稼ぐのではなく、金持ち女と結婚して、財産を作ろうとする男です。

 1本の矢を失くしたら、同じ方向にもう1本の矢を放ち、2本とも見つけるのだ。
 友人にカネを出させるため、そんなギャンブルみたいなことを平気で言う男です。

 そりゃあ、シャイロックだって、カネを貸すのを渋るでしょう。
 肉1ポンドの条件は、シャイロック流のアントーニオに対する警告だったのでは?

 というように、私はシャイロック寄りの視点で、この劇を読み進めました。
 娘が駆け落ちしたり、財産を没収されたり、シャイロックがかわいそうで・・・

 さて、作品の冒頭付近には、アントーニオによる名言があります。
 「世の中は世の中にすぎんよ、誰もが自分の役を演じる舞台だ。」

 ところが、存分に自分の役を演じているのは、貴婦人ボーシャのように思えます。
 後半部に入ると、主人公はボーシャか、とさえ思えてしまいます。

 そういう意味で、いろんな楽しみ方ができる作品でした。
 ただ、最後の指輪の場面は蛇足でしょう。裁判の終了とともに幕にするべきです。

 さいごに。(河津桜は見ごろを過ぎました)

 2月の中旬に見ごろを迎えた河津桜は、近所のお寺にも植えられています。
 所々、葉が出て来ています。見ごろを少し過ぎたようです。

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失楽園 ミルトン 2 [17世紀文学]

 「失楽園 下」 ミルトン作 平井正穂訳 (岩波文庫)


 「旧約聖書」の創世記をもとに、堕天使の逆襲と人間の楽園追放を描いた叙事詩です。
 ミルトンは17世紀の清教徒革命時に政務を執り、不遇の晩年にこの傑作を残しました。


失楽園 下 (岩波文庫 赤 206-3)

失楽園 下 (岩波文庫 赤 206-3)

  • 作者: ミルトン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1981/02/16
  • メディア: 文庫



 神はアダムに言いました。「この園の実はどれを食べてもいい。ただ一つを除いては。
 それこそ、善と悪の知識をもたらす樹。これを食べたら、死ぬことになるのだ。」と。

 ところがサタンは、エデンの園に忍び込み、眠っていた蛇の体内に入り込んで・・・
 蛇は、一人でいるイーブに、人の言葉で、知恵の木の実を食べるように勧めて・・・

 イーブは不思議に思いました。「蛇は知恵の実を食べたのに、死なないではないか。
 それどころか、人の言葉で話し始めたではないか。これは、どういうことか?」・・・

 下巻に入ると、「聖書」の創世記に書かれた内容が語られます。
 そのクライマックスは、サタンによる誘惑と、アダムとイーブの楽園追放の場面です。

 この物語を読んで、私は思いました。「最大の黒幕は、神ではないか?」と。
 思わせぶりなことを言っておいて、知恵の実を食べるなと禁じるのは、どうしてか?

 本当に食べさせたくなかったら、知恵の木などそこに置かなければよいではないか。
 楽園追放は、神によって仕組まれた、巧妙な罠だったのではないか。

 視点を変えると、楽園追放は、人類が神の束縛から免れ、自立する物語でもあります。
 永遠の生命と引き換えに、知識を手に入れたアダムとイーブは、自由を求めて旅立つ!

 現在人類は、この地球を飛び立ち、いよいよ宇宙の探査に乗り出そうとしています。
 我々の科学の飛躍的進歩は、アダムとイーブが知恵の実を食べたおかげではないのか。
 
 このような解釈をも許してしまうところに、「失楽園」という作品の深さがあります。
 また、危険な魅力が潜んでいることに、改めて気付かされました。

 もしかしたらミルトンは、時々やけくそになって「失楽園」を書いたのではないか?
 晩年の不遇に対する怒りを、神に投げつける気持ちが、まったくなかっただろうか?

 バニヤンの「天路歴程」が、一貫して「良い子」の物語で、面白みに欠けたのに対し、
 ミルトンの「失楽園」は、基本的に「不良」の物語で、そこに大きな魅力があります。

 さいごに。(ありえない、15分30秒)

 先日の駅伝で、3キロ走るのに15分30秒かかりました。1キロ5分10秒のペースです。
 以前は、1キロ4分30秒のペースで、10キロ以上を普通に走っていたものですが・・・

 その頃はフルマラソンに出ていたので、10キロなんて短くて、走った気がしなかった。
 しかし、今ではわずか3キロが、長くて長くて。何度も止まりそうになってしまった!

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失楽園 ミルトン 1 [17世紀文学]

 「失楽園 上」 ミルトン作 平井正穂訳 (岩波文庫)


 「旧約聖書」の創世記をもとに、堕天使の逆襲と人間の楽園追放を描いた叙事詩です。
 ミルトンは17世紀の清教徒革命時に政務を執り、不遇の晩年にこの傑作を残しました。


失楽園 上 (岩波文庫 赤 206-2)

失楽園 上 (岩波文庫 赤 206-2)

  • 作者: ミルトン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1981/01/16
  • メディア: 文庫



 神との戦いに敗れ、地獄でのたうちまわっていたサタンが、再び立ち上がりました。
 そして地獄の軍団に呼びかけます。自由のために戦い、あの世界を奪還しようと。

 神を打ち負かすには、正面から立ち向かわずに、隠密裏に事を謀ろうではないか。
 神から恩寵を受けている人間という種族の世界を、破壊してやろうではないか。

 サタンはただひとり、偵察のため地獄の門を出て、人間どもの住む地球へ向かい・・・
 よく言われることですが、サタンの行動が妙にカッコいいのです。

 自分を襲う疑惑や恐怖に打ち勝ち、悪に徹しようとする姿は感動的ですらあります。
 神を打ち倒すという不可能に対して、全力で立ち向かう姿は英雄的ですらあります。

 もしかしたら、ミルトン自身がサタンに投影されているのではないでしょうか?
 そう思えてしまうほど、サタンは人間的でリアルで、しかも理想的に描かれています。

 清教徒革命時にミルトンは、クロムウェルのもとで長いこと政務を執っていましたが、
 クロムウェルの死後、王政復古があり、失脚したミルトンは不遇の晩年を過ごします。

 失意の日々の中で、彼は自身が悪魔となって降臨することを、想像したのではないか?
 たとえば次のような文に、ミルトンの人間世界に対する絶望と怒りが表れています。

 「恥を知れ、と私は言いたいのだ! 呪われた悪魔でさえも、
 悪魔同士で固い一致団結を守っているのだ、それなのに、
 生けるものの中で理性的な人間だけが、神の恩寵を受ける
 希望が与えられているにもかかわらず、互いに反ゼイし合っている。
 神が、地には平和あれ、と宣(のたも)うているにもかかわらず、互いに憎悪と
 敵意と闘争の生活にあけくれ、残虐な戦争を起こしては
 地上を荒廃させ、骨肉相食(は)んでいる始末だ。」(P82)

 「失楽園」には、悪魔に魂を売り渡したくなるような、危険な魅力が潜んでいます。
 「サタンがんばれ、神を倒せ!」と、悪魔を応援したくなるような、不健全な魅力が。

 さて、岩波文庫版は初版が1981年です。比較的読みやすい訳だと思います。
 また、それぞれの巻の最初に梗概が付いているので、とても助かっています。

 さいごに。(夕食後に餅を食う?)

 育ち盛り・食べ盛りの娘は、夕食直後に「おなかすいたー」と言い出しました。
 そして、なんと、冷凍の餅を取り出し、オーブンで焼いて食べ始めたのです。

 今はまだ小学校6年生ですが、食べる量では太刀打ちできなくなりました。
 娘は最近、太るかと心配しています。そりゃ、この調子で食べたら太るでしょう。

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シェイクスピアを楽しむために [17世紀文学]

 「シェイクスピアを楽しむために」 阿刀田高 (新潮文庫)


 シェイクスピアの代表作11編について、あらすじや蘊蓄を軽妙に紹介した入門書です。
 阿刀田高の解説シリーズの一冊で、2003年に新潮文庫から出ています。


シェイクスピアを楽しむために (新潮文庫)

シェイクスピアを楽しむために (新潮文庫)

  • 作者: 阿刀田 高
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/12/25
  • メディア: 文庫



 数あるシェイクスピアものの一冊です。第1章はその生涯です。
 第2章からは、以下の11編を選んで、阿刀田式に蘊蓄を混ぜて紹介しています。

 「ハムレット」     「ロミオとジュリエット」
 「オセロー」      「夏の夜の夢」
 「ベニスの商人」    「ジュリアス・シーザー」
 「ヘンリー四世」    「ウィンザーの陽気な女房たち」
 「リチャード三世」   「マクベス」
 「リア王」

 以上、悲劇、喜劇、史劇と、バランスよく選択されています。
 私的には、「テンペスト(あらし)」を入れてほしかったが・・・

 相変わらず阿刀田の語り口は、縦横無尽でしかもとても軽快です。
 また、知らず知らずのうちに、さまざまな知識が身に付いています。

 私はこの本で初めて、「ジュリアス・シーザー」が史劇ではないと知りました。
 これまでシェイクスピアの史劇の定義なんて、考えたこともありませんでした。

 というより、シェイクスピアの史劇そのものに、あまり興味が無かったです。
 しかしこの本を読んで、「リチャード三世」は読みたいと思いました。

 さて、今年2019年は、シェイクスピアの作品をある程度まとめて読む予定です。
 すでに読んだものも入れて、読むべき作品を考えてみました。

 まず四大悲劇「ハムレット」「オセロー」「リア王」「マクベス」は外せません。
 また、「ロミオとジュリエット」と「ジュリアス・シーザー」も外せません。

 喜劇では、「夏の夜の夢」「ベニスの商人」「あらし」は外せないでしょう。
 できれば「お気に召すまま」「十二夜」「終わりよければ全てよし」も入れたい。

 史劇も、「リチャード三世」だけは読んでおきたいです。
 そうすると、軽く10作品は超えてしまいそうです。まあ、仕方がないか。

 幸い、現在、ちくま文庫から松岡訳、角川文庫から河合訳が出ています。
 どちらも新訳で読みやすいです。問題は、どちらを選ぶかですね。

 私は角川文庫の河合訳を選んでいますが、まだ刊行されていない作品が多いです。
 その点、ちくま文庫版は、読みたい作品がたいてい刊行されているので良いです。 

 さいごに。(食べ盛り)

 娘は、小学校から帰って来ると、食パン1枚にチーズをのせて食べるのだそうです。
 その後の夕食も、私と同じくらい食べます。体重はまだ40キロないというのに。

 背はニョキニョキと伸びています。今がまさに育ち盛り、食べ盛りなのでしょうね。
 幼稚園時代、給食を食べるのが遅くて心配したのが、まったく冗談のようです。
 

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天路歴程2 [17世紀文学]

 「天路歴程 第一部」 ジョン・バニヤン作 竹友藻風訳 (岩波文庫)


 破滅の町においていかれた家族が、様々な苦難を乗り越えて天国に至る物語です。
 正編である「第一部」に続く続編で、岩波文庫から出ていましたが現在絶版です。


天路歴程 第2部 (岩波文庫 赤 207-2)

天路歴程 第2部 (岩波文庫 赤 207-2)

  • 作者: ジョン・バニヤン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1991/03
  • メディア: 文庫



 第二部も、「私」が眠っている時に見た夢の内容として、物語が語られています。
 今度は、クリスチャンによって取り残された妻クリスティアナが主役になります。

 クリスティアナは、夫が天国に至ったことを噂で聞いて、ひどく後悔していました。
 彼女のもとにシークレットという男が訪れ、天国の王からの手紙をくれました。

 そこには、夫と同じように苦難を乗り越え天国にやって来るように、とありました。
 彼女は決心します。「子供たちよ、荷物をまとめて『天国』へ導く門へ行きませう」

 クリスティアナがたどるのは、夫クリスチャンと同じ道なので新しさはありません。
 第一部の登場人物が再登場し、クリスチャンの行動を褒める場面が多かったです。

 時にクリスティアナは、夫を一人旅立たせた女として、批判されたりもしました。
 だが批判すべきは、妻と4人の子を置き去りにしたクリスチャンの方ではないのか?

 正直に言って、私にはクリスチャンがこれほど讃美される理由が分かりません。
 妻子を捨てて、自分のことだけを考え、勝手な行動に走ったエゴイストですよ。

 クリスチャンが勇ましく進んだのに対して、クリスティナは弱々しく歩んでいます。
 第二部は弱い者たちの物語です。彼らは多くの助けを借りながら天国に至ります。

 私は、第一部と第二部を通して、上から目線のお説教が、鼻についてしまいました。
 「自分たちだけが正しい」みたいな世界観が、どうもねえ・・・

 この作品は当時、異例なほど読まれた割には、文学的な評価は低かったと言います。
 その理由は、この高飛車なお説教にあるのではないでしょうか?

 さて、「天路歴程」は単行本でも出ています。岩波文庫版より分かりやすいです。
 また、児童用の絵本なども出ているので、概要だけを知りたい人にはオススメです。


天路歴程 正篇

天路歴程 正篇

  • 作者: ジョン バニヤン
  • 出版社/メーカー: 新教出版社
  • 発売日: 1976/11/10
  • メディア: 単行本



天路歴程 続篇

天路歴程 続篇

  • 作者: ジョン バニヤン
  • 出版社/メーカー: 新教出版社
  • 発売日: 1985/04/01
  • メディア: 単行本



危険な旅: 天路歴程ものがたり (つのぶえ文庫)

危険な旅: 天路歴程ものがたり (つのぶえ文庫)

  • 作者: ジョン バニヤン
  • 出版社/メーカー: 新教出版社
  • 発売日: 2013/08/26
  • メディア: 単行本



天路歴程 ハンディ版

天路歴程 ハンディ版

  • 作者: ジョン・バニヤン
  • 出版社/メーカー: キリスト新聞社
  • 発売日: 2015/03/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 「天路歴程」はさまざまな冒険物語に影響を与えたと言われています。
 「ナルニア国物語」や「指輪物語」等のファンタジーも、影響を受けているそうです。


魔術師のおい ナルニア国物語 1 (古典新訳文庫)

魔術師のおい ナルニア国物語 1 (古典新訳文庫)

  • 作者: C・S・ルイス
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/09/08
  • メディア: 文庫



新版 指輪物語〈1〉旅の仲間 上1 (評論社文庫)

新版 指輪物語〈1〉旅の仲間 上1 (評論社文庫)

  • 作者: J.R.R. トールキン
  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 1992/07/01
  • メディア: 文庫



 さいごに。(WESTのコンサート)

 新年早々、妻と娘は、ジャニーズWESTのコンサートを見に横浜へ行きました。
 ここ数日、2人でパタパタと振り付けをしていたのも、この日のためでした。

 妻によると、コンサートは最高だったが、グッズ購入で力を使い果たしたとのこと。
 ペンライトとうちわを買うためだけに、なんと3時間も並んでいたのだそうだ・・・

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天路歴程1 [17世紀文学]

 「天路歴程 第一部」 ジョン・バニヤン作 竹友藻風訳 (岩波文庫)


 破滅の町に住む男クリスチャンが、様々な苦難を乗り越えて天国に至る物語です。
 1678年に出て、プロテスタント世界では、聖書に次いで読まれている宗教書です。

 岩波文庫から2012年に復刊されました。書店によってはまだ置いてあります。
 初版は1951年。活字が小さくて、旧字体も使われているため、読みにくいです。


天路歴程 第1部 (岩波文庫 赤 207-1)

天路歴程 第1部 (岩波文庫 赤 207-1)

  • 作者: ジョン・バニヤン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1991/03
  • メディア: 文庫



 クリスチャンはあるとき、自分がいかに罪深い生活を送って来たかを悟りました。
 「私は自ら破滅に陥っている。救われるためには、私はどうしたらいいだろう?」

 エヴァンジェリスト(伝道師)が、クリスチャンに聖書を手渡して言いました。
 「あの光から目を離さずにまっすぐ進み、門が現れたらそれをたたきなさい。」

 こうしてクリスチャンの、旅が始まりました。
 門をたたき、その重荷を解くまでに、彼は多くの困難を克服していきます。

 時には悪竜と戦い、時には巨人に捕らわれ・・・と、騎士道小説のようです。
 騎士道小説との違いは、それぞれの苦難に宗教的な意味が含まれていることです。

 悪竜の名は、ヨハネの黙示録に出てくるアポルオン(破壊者)です。
 巨人の名は、ディスペーア(絶望)と、ディフィデンス(疑念)です。

 それぞれの冒険は、キリスト教信仰における困難とその克服を意味しています。
 冒険を通じて、クリスチャンは、理想的なキリスト教徒に成長していきます。

 そして、第一部の最後は・・・なかなかイミシンです。
 「その現身の衣を川の中へ脱ぎ捨てて来た」とは、死んだということか?

 では、その後に描かれる理想的な世界は、死後の世界なのか?
 そういえば「西遊記」の一行も、川で現身を流し去ったあと天国に至りました。

 ところで、「天路歴程」の冒頭は、次のような魅力的な文章で始まっています。
 「この世の荒野を歩いている時、とある穴窟(あなむろ)のあるところにさしか
 かり、そこに身を横たえて眠った。」

 このときジョン・バニヤンは、免許なしで伝導した罪で監獄に入っていました。
 彼はプロテスタントだったので、逮捕には宗教的な理由も関わったのでしょう。

 冒頭の「この世の荒野の穴窟」とは、つまり、監獄のことのようです。
 クリスチャンは、監獄において強固に鍛えられていく、自分の分身なのでしょう。

 さて、この物語の文章の上の部分には、小見出しがあって理解を助けてくれます。
 小見出しをたどることで、クリスチャンの物語を簡単に振り返ることができます。

 たいへん便利な小見出しなのですが、活字が小さいため、読むのに苦労しました。
 老眼なので、ここを読むために眼鏡を外さなければならなくて、面倒だったです。

 「天路歴程」には、続編の第二部があります。
 すでに絶版のようですが、私は地元の書店で普通に手に入れることができました。


天路歴程 第2部 (岩波文庫 赤 207-2)

天路歴程 第2部 (岩波文庫 赤 207-2)

  • 作者: ジョン・バニヤン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1991/03
  • メディア: 文庫



 さいごに。(ジャニーズの話に入るな)

 先日の飲み会で、「妻と娘のジャニーズの話に入れない」と、友人に言ったら、
 「妻と娘の世界に割り込もうとするところが間違ってる」と、指摘されました。

 そういう話には入らず、さりげなく役立ってあげることが大事なのだそうです。
 たとえばコンサート会場まで車で送ってあげるとか・・・私にはできないなあ。

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丸かじりドン・キホーテ [17世紀文学]

 「丸かじりドン・キホーテ」 中丸明 (新潮文庫)


 「ドン・キホーテ」初心者が、長大な物語を手軽に味わうためのガイドマップです。
 物語のあらすじ、読み解くための13の鍵、セルバンテスの生涯の三章から成ります。


丸かじりドン・キホーテ (新潮文庫)

丸かじりドン・キホーテ (新潮文庫)

  • 作者: 中丸 明
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/07
  • メディア: 文庫



 傑作スペイン文学「ドン・キホーテ」を、通して読んだ人は少ないのだそうです。
 風車に戦いを挑む場面が強烈すぎて、ばかばかしくて読む気をそがれるのだとか。

 なるほど、話は面白いのだが、岩波文庫で6冊あるとなると、ごちそうさまです。
 私は1冊目しか読んでいません。全巻を通して読むには、エネルギーが必要です。
 「ドン・キホーテ」→ https://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2010-01-13

 さて、本書「丸かじりドン・キホーテ」は、流れがよく見える抄訳になっています。
 細部を大胆に省略して、約280ページにまとめているので、とても気軽に読めます。

 この本のおかげで、「ドン・キホーテ」の全貌をだいたい知ることができました。
 意外だったことは、前半よりも後半の方が面白かった、ということです。

 「前半」の旅から帰ったドン・キホーテは、しばらく故郷で静養していました。
 しかしある学士から、自分の伝記が世に広まっていることを聞かされて・・・

 後半には、「ドン・キホーテ前編」を愛読しているという人物が続出しました。
 その代表格が公爵夫人でしょう。彼女は、評判の騎士を自分の城に招待して・・・

 この公爵夫人によって、サンチョ・パンサが島の太守を務めた場面は傑作です。
 仕立て屋と百姓の訴訟、豚飼いと女の訴訟と、たて続けに名判決を下しました。

 太守となったサンチョは冴えまくっていて、名言がポンポンと飛び出します。
 「考えても見なせ。人間、眠ってるあいだは、金持ちも貧乏人も同じだべ。」

 「悪徳領主になって地獄さおっこちるより、ただのサンチョ・パンサで天国さ
 行ったほーが、なんぼかマシだとおもうだ」

 サンチョが島を去る場面、特に騾馬に謝る場面は、ほろりとしてしまいます。
 サンチョは良い味を出してます。サンチョあっての「ドン・キホーテ」ですよ。

 「あのふたりはどうも、同じ鋳型から打ち出されたとしかおもえませんわい。
 主人の気ちがい沙汰も、家来の愚かさなしでは、まったくのところ、一文の
 値打ちもないんですからの。」

 解説によると、「丸かじりドン・キホーテ」の圧巻は、第Ⅱ章だと言います。
 「ドン・キホーテを読み解く13の鍵と題して、物語の背景を説明しています。

 レコンキスタ、異教徒、大航海時代、ペスト、郷士、ハプスブルク家・・・
 当時のスペイン事情が分かり、「ドン・キホーテ」の理解が深まります。

 かつて現代教養文庫から、「ドレ画ドン・キホーテ物語」が出ていました。
 その名の通り、「ドレ画」がメインで、ストーリーは絵の説明程度です。

 このドレの絵がまたすばらしい。文庫本で小さくて細かいのが難点ですが。
 ドン・キホーテとサンチョ・パンサのイメージが、この本で作られました。


ドン・キホーテ物語 (現代教養文庫)

ドン・キホーテ物語 (現代教養文庫)

  • 作者: セルバンテス
  • 出版社/メーカー: 社会思想社
  • 発売日: 1990/12
  • メディア: 文庫



 さいごに。(女子力高めグループが苦手)

 娘のクラスには、女子力の高い女子数人のグループがあるそうです。
 うちの娘は、そのグループの女子たちが苦手なのだそうです。

 彼女たちは、人に何か言われると、即座にかわいい反応をするのだとか。
 うちの娘はぼんやりしているので、そういう反応ができないと言います。

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聊斎志異2 [17世紀文学]

 「聊斎志異(下)」 蒲松齢作 立間祥介編訳 (岩波文庫)


 清代に世間で口伝されていた、神仙・幽鬼・妖怪の怪異譚を小説化したものです。
 岩波文庫から抄訳が二分冊で出ています。文章は分かりやすく挿絵もあります。


聊斎志異〈下〉 (岩波文庫)

聊斎志異〈下〉 (岩波文庫)

  • 作者: 蒲 松齢
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1997/02/17
  • メディア: 文庫



 「巻五の八 酒の精」は、酒虫(しゅちゅう)という興味深い妖精?の話です。
 酒飲みの男が、思わず喉から吐き出したものは、三寸ばかりの赤い虫で・・・

 「巻五の二十七 冥土の殺人」は、幽鬼の女とあの世に出かけた男の物語です。
 事の成り行きで、あの世の役人を殺してしまい、この世に逃れていたが・・・

 「巻六の四十四 すっぽん大王」もまた、とても興味深い話です。
 馮という男が、すっぽん大王に酒をおごり、お礼として与えられたものは・・・

 「口からひとりの一寸あまりのこびとを吐き出すと、きゅっと馮の腕をつねった。
 (中略)急いでそのこびとをそこへ押しつけた。手を離すとこびとはすでに皮の
 中にはいっていた・・・」(P163) それ以後、馮には特別な力が宿り・・・

 「巻七の二十九 甄(しん)夫人と劉楨(りゅうてい)」もまた、面白いです。
 劉楨は若いころ頭が弱かったが、あるとき仙女が現れて、意外なことを言います。

 「わたくしが一度瑶地の宴に行ってきたあいだに、あなたは何度も生まれ変わっ
 て、あのすばらしいおつむもすっかり使い果たしてしまわれたのですね」(P194)

 そのほか下巻も、「月下老人」「天上の宮」「痣の下の美玉」と佳作ぞろいです。
 中でも、我々本好きにとって最も興味深いのは、「巻十一の三 書中の美女」。

 玉柱の家は書物で溢れていましたが、彼はそれをとても大事に扱っていました。
 というのも玉柱は、書物の中には本物の家や食べ物があると考えていたからです。

 玉柱は妻をめとらず、書物から麗人が現れるのをひたすら待ち望んでいました。
 ある日、書物を眺めていると、紙面からひとりの美人が、急に起き上がりました。

 以後、玉柱の妻となり、彼が科挙に受かるため、さまざまな支援をしますが・・・ 
 そういう幽鬼だったら、ぜひ会ってみたいものです。

 さて、岩波文庫版「聊斎志異」は、全490編のうち、92編をセレクトしています。
 訳は分かりやすくて良かったです。また、挿し絵は味わい深いものでした。

 ところが、ツウの間では、一昔前の柴田天馬訳が、高い評価を得ているようです。
 作品の雰囲気が出ていてすばらしいと言うが、角川文庫の完訳版は絶版でした。

 ちくま学芸文庫から、柴田の抄訳版が出ていましたが、こちらも絶版のようです。
 キンドルで復刻版が出ましたが、それだけ根強いファンがいる証拠ですね。


聊斎志異〈第1巻〉―完訳 (1955年) (角川文庫)

聊斎志異〈第1巻〉―完訳 (1955年) (角川文庫)

  • 作者: 蒲 松齢
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1955/02/10
  • メディア: 文庫



【復刻版】柴田天馬「完訳 聊斎志異」第1巻(蒲松齢著) (響林社文庫)

【復刻版】柴田天馬「完訳 聊斎志異」第1巻(蒲松齢著) (響林社文庫)

  • 出版社/メーカー: 響林社
  • 発売日: 2017/01/07
  • メディア: Kindle版



和訳 聊斎志異 (ちくま学芸文庫)

和訳 聊斎志異 (ちくま学芸文庫)

  • 作者: 蒲 松齢
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2012/05/01
  • メディア: 文庫



 さいごに。(町内の運動会)

 今年わが町内会は、総合2位でした。惜しかった!
 途中経過では、わずか数点差ながら首位だったので。

 今年うちの娘は6年生。いっしょに運動会に出るのは、最後かもしれません。
 娘といっしょに出た、ゴルフ・リレーと町内対抗リレーは、良い思い出です。

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聊斎志異1 [17世紀文学]

 「聊斎志異(上)」 蒲松齢作 立間祥介編訳 (岩波文庫)


 清代に世間で口伝されていた、神仙・幽鬼・妖怪の怪異譚を小説化したものです。
 聊斎とは作者の蒲松齢のことです。中国の怪異文学の最高峰とも言われています。

 岩波文庫から上下二分冊で出ています。文章は分かりやすく挿絵も入っています。
 全部で490編ほどあるうちの、92編を選んで収録しています。


聊斎志異〈上〉 (岩波文庫)

聊斎志異〈上〉 (岩波文庫)

  • 作者: 蒲 松齢
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1997/01/16
  • メディア: 文庫



 冒頭「巻一の一 冥界の登用試験」から、面白くていっきにのめり込みます。
 病気の学生のもとに、召喚状を持った役人が来て、天上界へ連れていき・・・

 「巻一の六 壁画の天女」は傑作です。男がある寺で体験した話です。
 壁画の天女図を見つめていると、男はいつのまにか画の中に入り込んでいて・・・

 「巻一の十三 桃盗人」は、天上の桃を盗む手品師の話です。この話がすごい。
 天に向って直立した縄を、手品師の息子が登って、天上界の桃を盗んだが・・・

 「巻三の十五 夜毎の女」は、幽鬼の女と通じる話ですが、情緒があります。
 歌の上の句が切ない声で歌われたので、男が下の句を作って口ずさみました。

 すると、美しい女がやって来て、死んでから20年間さまよっていたと言います。
 お互いに風流を解する仲間同士だと喜び合い、男が抱き寄せようとすると・・・

 「わたくしは塚の下の枯れくちた骨、生きているお方とは違います。
 閨の楽しみをすれば、この世の人の寿命を縮めることになるのです。」(P344)

 このように、我々の俗世界と、天上界や幽鬼の世界が、しばしば交錯します。
 そして登場人物は当然のように、この世界とあちらの世界を行き来しています。

 日常の世界に突然、非日常の空間が割り込む感覚が、少しずつクセになります。
 話はだいたい3~5ページほどですが、ページをめくるたびに驚きがあります。

 たとえば狐に化かされたという話より、進んで化かされる話の方が目立ちます。
 美しい女を狐と知っていながら嫁にしたり、狐との間に子供まで作ったり・・・

 さて、岩波文庫版には、多くの挿絵が入っていることも魅力です。
 挿絵はいずれも味があって、しかもかわいらしくて、とても良いです。

 「宿屋の怪」の木を抱く死体の絵(P20)、「化けの皮」の鬼の絵(P132)。
 サイコーなのは「冥土行きの車」の挿絵(P204)。望郷台から二人でジャンプ!

 蒲松齢は別名聊斎先生。清代の初め(1600年代の終わり頃)に活動しました。
 人々から奇異な話を聞いて小説化し、約490編の「聊斎志異」を著したと言う。

 さいごに。(今年こそ最後にしたい)

 日曜日、町内対抗の運動会が行われます。
 うちの町内は人が少ないため、今年は4種目にエントリーしました。

 百足競走、長縄跳び、グランドゴルフ・リレー、そして町内対抗リレーです。
 娘は6年生。来年は子供会から外れます。私は51歳。リレーは最後にしたい。

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十二夜 [17世紀文学]

 「十二夜」 シェイクスピア作 河合祥一郎訳 (角川文庫)


 男装のヴァイオラを中心に、三角関係のドタバタを描いた、喜劇の最高峰です。
 クリスマス・シーズン最後の夜「十二夜」に上演するために書かれた喜劇です。

 角川文庫から出ている河合訳が最新の訳です。文章は分かりやすかったです。
 リズムもいいです。ライム(押韻)をすべて訳出することに挑戦したとのこと。


新訳 十二夜 (角川文庫)

新訳 十二夜 (角川文庫)

  • 作者: シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/10/25
  • メディア: 文庫



 名作なので、多くの文庫から様々な訳が出ています。
 どの訳も分かりやすく、それぞれの味わいがあります。


シェイクスピア全集 (6) 十二夜 (ちくま文庫)

シェイクスピア全集 (6) 十二夜 (ちくま文庫)

  • 作者: W. シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1998/09
  • メディア: 文庫



十二夜 (光文社古典新訳文庫)

十二夜 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/11/08
  • メディア: 文庫



十二夜 (岩波文庫)

十二夜 (岩波文庫)

  • 作者: シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1960/03/25
  • メディア: 文庫



 双子の兄妹セバスチャンとヴァイオラが乗っていた船が、嵐によって難破しました。
 二人は危うく助かり、離れ離れになり、お互いに死んだものと考えていました。

 ヴァイオラは身を守るために男装し、シザーリオと名乗って公爵家に仕えました。
 ところが彼女は、主人であるオーシーノ公爵に恋してしまったのです。

 公爵は、伯爵家のオリヴィアに求婚していましたが、全く相手にされていません。
 そしてシザーリオ(ヴァイオラ)が、公爵の気持ちを伝える使いを頼まれました。

 シザーリオはオリヴィアに、すっかりほれ込まれてしまい・・・
 やがて、生きていた兄のセバスチャンが戻ってくると・・・

 三角関係に、 人々の勘違いが加わり、事態は複雑に絡み合っていきます。
 さらにオリヴィア家の者の悪戯まで加わって、もうどうしようもありません。

 笑いにつぐ笑い。クリスマス・シーズンの最後を飾るにふさわしい大傑作です。
 P63のような卑猥な笑いもあって、なんでもありって感じです。

 シェイクスピア喜劇の集大成です。この作品を最後に、喜劇の時代が終ります。
 ほぼ同時期に書かれた喜劇「お気に召すまま」も読んでみたいです。


お気に召すまま−シェイクスピア全集 15  (ちくま文庫)

お気に召すまま−シェイクスピア全集 15  (ちくま文庫)

  • 作者: W. シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2007/06
  • メディア: 文庫



お気に召すまま (新潮文庫)

お気に召すまま (新潮文庫)

  • 作者: ウィリアム シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1981/07/28
  • メディア: 文庫



 さいごに。(今年からゴールデン・ウィークは無し)

 明日から5日間休みという人は多いでしょう。中には9連休という人もいます。
 私は今年から、5日間全て仕事です。代休はありません。13日連続勤務です。

 うちの業界では珍しいことではありません。でも、なんとかしてほしい!
 「冬休みは絶対たっぷり休んでやるぞ」と、今はただそう誓うのみです。

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