瓶詰の地獄 [日本の近代文学]
「瓶詰の地獄」 夢野久作 (角川文庫)
夢野の短編の代表作「瓶詰の地獄」「死後の恋」など、全7編の短編集です。
ペンネームは、福岡地方の方言で夢想家を意味する「夢の久作」からきています。
タイトル作「瓶詰の地獄」は、海岸に流れ着いた瓶の中の手紙で構成されています。
瓶は3つあり、それぞれには、無人島に流れ着いた兄妹の状況が描かれています。
第一の手紙には、ふたりがしっかり抱き合ったまま身を投げる、と書かれています。
それは「犯した罪のつぐない」というが・・・いったいこの兄妹に何があったのか?
とても完成度の高い作品だとは思いますが、私的には少しもの足りなかったです。
というのも、第一の手紙で内容があらかた想像できてしまったためです。
「死後の恋」こそ、私は夢野久作の短編の、最高傑作だと思います。
「キチガイ紳士」と呼ばれるロシア人が語る、ロマノフ王家の末路に関わる話です。
反革命軍に身を投じたコルニコフは、リヤトニコフという少年兵士を知りました。
あるときリヤトニコフは、身分を証明する数々の宝石類をコルニコフに見せました。
実はリヤトニコフは王家の末裔で、血統を絶やさぬために家から出されたのでした。
その宝石類は、子孫を残すために親から与えられた、大事な資本だと言うのです。
なぜリヤトニコフは、自分にこんな大事な打ち明け話をしたのか?
宝石類への欲望で目がくらんだ彼には、リヤトニコフの気持ちが想像できません。
彼は、リヤトニコフが死んだら宝石類を手に入れようと考え、斥候に志願して・・・
リヤトニコフの秘密とは? そして、リヤトニコフのある思いとは?
「鉄鎚(かなづち)」もまた、読み応えのある作品でした。
父が「悪魔」と呼んでいた相場師の叔父に、弟子入りした「私」の物語です。
「私」の一家は、叔父によってめちゃくちゃにされ、父は叔父を憎んで死にました。
私は父から、「もし叔父に会ったら鉄鎚で脳天をぶち割れ」と、言われていました。
ところが父の死後、どこからともなく現れた叔父に、私は養われるようになります。
そして「私」の電話番のおかげで、叔父の財産はどんどん増えていくのです。
そこへ、伊奈子というさらに悪魔的な女がやってきて・・・
「私」は、叔父が身を亡ぼすことを知りながら、冷然とそれを観察し・・・
「ホントウの悪魔とは、自分を悪魔と思っていない人間を指して言うのであるーー
自分では夢にも気付かないまんまに、他人の幸福や生命をあらゆる残忍な方法で否
定しながら、平気の平左で白昼の大道を闊歩していくものが、ホントウの悪魔でな
ければならぬ」(P115)
面白い作品ですが、「伊奈子」が登場して、話が複雑になりすぎたように思います。
伊奈子を登場させなくても、充分に味わい深い作品になったと、私は思うのですが。
さて、夢野久作の短編におけるマイベストは、なんといっても「一足お先に」です。
タイトルがサイコー。しかも、次のような謎めいた言葉から物語が始まります。
「トックの昔に断り棄てられた、私の右足の幽霊が私に取り憑いて、私に強盗、強
姦、殺人の世にも恐ろしい罪を犯させている事がわかったとしたら、私は一体どう
したらいいのだろう。」(P175)
主人公は、病気で右脚を切断して、外科病院に入院している新東という青年です。
新東は、無くなった脚に痛みを覚えたり、その脚が歩き回る夢を見たりしています。
そんな折、副院長から脚を失った後に夢遊病になった例を聞き、心配になりました。
夢中遊行を起こさないため、今後は脚の夢を見ないようにと考えたりしました。
ところがある朝、副院長に「歌原未亡人は貴方が殺したのでしょう」と言われ・・・
そう言われて、自分が夜中に歌原未亡人を殺し、宝石類を盗んだ記憶が蘇って・・・
と、非常にスリリングな展開をします。しかも、最後のどんでん返し!
私のイチオシの夢の作品です。怪奇小説的な味わいのある、ミステリー作品です。
さいごに。(スコーンセット)
日光の中禅寺湖畔にある英国大使館別荘で、スコーンのセットを食べました。
絶景を前に、家族とのティータイムは格別。実にぜいたくなひとときでした。
夢野の短編の代表作「瓶詰の地獄」「死後の恋」など、全7編の短編集です。
ペンネームは、福岡地方の方言で夢想家を意味する「夢の久作」からきています。
タイトル作「瓶詰の地獄」は、海岸に流れ着いた瓶の中の手紙で構成されています。
瓶は3つあり、それぞれには、無人島に流れ着いた兄妹の状況が描かれています。
第一の手紙には、ふたりがしっかり抱き合ったまま身を投げる、と書かれています。
それは「犯した罪のつぐない」というが・・・いったいこの兄妹に何があったのか?
とても完成度の高い作品だとは思いますが、私的には少しもの足りなかったです。
というのも、第一の手紙で内容があらかた想像できてしまったためです。
「死後の恋」こそ、私は夢野久作の短編の、最高傑作だと思います。
「キチガイ紳士」と呼ばれるロシア人が語る、ロマノフ王家の末路に関わる話です。
反革命軍に身を投じたコルニコフは、リヤトニコフという少年兵士を知りました。
あるときリヤトニコフは、身分を証明する数々の宝石類をコルニコフに見せました。
実はリヤトニコフは王家の末裔で、血統を絶やさぬために家から出されたのでした。
その宝石類は、子孫を残すために親から与えられた、大事な資本だと言うのです。
なぜリヤトニコフは、自分にこんな大事な打ち明け話をしたのか?
宝石類への欲望で目がくらんだ彼には、リヤトニコフの気持ちが想像できません。
彼は、リヤトニコフが死んだら宝石類を手に入れようと考え、斥候に志願して・・・
リヤトニコフの秘密とは? そして、リヤトニコフのある思いとは?
「鉄鎚(かなづち)」もまた、読み応えのある作品でした。
父が「悪魔」と呼んでいた相場師の叔父に、弟子入りした「私」の物語です。
「私」の一家は、叔父によってめちゃくちゃにされ、父は叔父を憎んで死にました。
私は父から、「もし叔父に会ったら鉄鎚で脳天をぶち割れ」と、言われていました。
ところが父の死後、どこからともなく現れた叔父に、私は養われるようになります。
そして「私」の電話番のおかげで、叔父の財産はどんどん増えていくのです。
そこへ、伊奈子というさらに悪魔的な女がやってきて・・・
「私」は、叔父が身を亡ぼすことを知りながら、冷然とそれを観察し・・・
「ホントウの悪魔とは、自分を悪魔と思っていない人間を指して言うのであるーー
自分では夢にも気付かないまんまに、他人の幸福や生命をあらゆる残忍な方法で否
定しながら、平気の平左で白昼の大道を闊歩していくものが、ホントウの悪魔でな
ければならぬ」(P115)
面白い作品ですが、「伊奈子」が登場して、話が複雑になりすぎたように思います。
伊奈子を登場させなくても、充分に味わい深い作品になったと、私は思うのですが。
さて、夢野久作の短編におけるマイベストは、なんといっても「一足お先に」です。
タイトルがサイコー。しかも、次のような謎めいた言葉から物語が始まります。
「トックの昔に断り棄てられた、私の右足の幽霊が私に取り憑いて、私に強盗、強
姦、殺人の世にも恐ろしい罪を犯させている事がわかったとしたら、私は一体どう
したらいいのだろう。」(P175)
主人公は、病気で右脚を切断して、外科病院に入院している新東という青年です。
新東は、無くなった脚に痛みを覚えたり、その脚が歩き回る夢を見たりしています。
そんな折、副院長から脚を失った後に夢遊病になった例を聞き、心配になりました。
夢中遊行を起こさないため、今後は脚の夢を見ないようにと考えたりしました。
ところがある朝、副院長に「歌原未亡人は貴方が殺したのでしょう」と言われ・・・
そう言われて、自分が夜中に歌原未亡人を殺し、宝石類を盗んだ記憶が蘇って・・・
と、非常にスリリングな展開をします。しかも、最後のどんでん返し!
私のイチオシの夢の作品です。怪奇小説的な味わいのある、ミステリー作品です。
さいごに。(スコーンセット)
日光の中禅寺湖畔にある英国大使館別荘で、スコーンのセットを食べました。
絶景を前に、家族とのティータイムは格別。実にぜいたくなひとときでした。