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瓶詰の地獄 [日本の近代文学]

 「瓶詰の地獄」 夢野久作 (角川文庫)


 夢野の短編の代表作「瓶詰の地獄」「死後の恋」など、全7編の短編集です。
 ペンネームは、福岡地方の方言で夢想家を意味する「夢の久作」からきています。


瓶詰の地獄 (角川文庫)

瓶詰の地獄 (角川文庫)

  • 作者: 夢野 久作
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2009/03/21
  • メディア: 文庫



 タイトル作「瓶詰の地獄」は、海岸に流れ着いた瓶の中の手紙で構成されています。
 瓶は3つあり、それぞれには、無人島に流れ着いた兄妹の状況が描かれています。

 第一の手紙には、ふたりがしっかり抱き合ったまま身を投げる、と書かれています。
 それは「犯した罪のつぐない」というが・・・いったいこの兄妹に何があったのか?

 とても完成度の高い作品だとは思いますが、私的には少しもの足りなかったです。
 というのも、第一の手紙で内容があらかた想像できてしまったためです。

 「死後の恋」こそ、私は夢野久作の短編の、最高傑作だと思います。
 「キチガイ紳士」と呼ばれるロシア人が語る、ロマノフ王家の末路に関わる話です。

 反革命軍に身を投じたコルニコフは、リヤトニコフという少年兵士を知りました。 
 あるときリヤトニコフは、身分を証明する数々の宝石類をコルニコフに見せました。

 実はリヤトニコフは王家の末裔で、血統を絶やさぬために家から出されたのでした。
 その宝石類は、子孫を残すために親から与えられた、大事な資本だと言うのです。

 なぜリヤトニコフは、自分にこんな大事な打ち明け話をしたのか?
 宝石類への欲望で目がくらんだ彼には、リヤトニコフの気持ちが想像できません。

 彼は、リヤトニコフが死んだら宝石類を手に入れようと考え、斥候に志願して・・・
 リヤトニコフの秘密とは? そして、リヤトニコフのある思いとは?

 「鉄鎚(かなづち)」もまた、読み応えのある作品でした。
 父が「悪魔」と呼んでいた相場師の叔父に、弟子入りした「私」の物語です。

 「私」の一家は、叔父によってめちゃくちゃにされ、父は叔父を憎んで死にました。
 私は父から、「もし叔父に会ったら鉄鎚で脳天をぶち割れ」と、言われていました。

 ところが父の死後、どこからともなく現れた叔父に、私は養われるようになります。
 そして「私」の電話番のおかげで、叔父の財産はどんどん増えていくのです。

 そこへ、伊奈子というさらに悪魔的な女がやってきて・・・
 「私」は、叔父が身を亡ぼすことを知りながら、冷然とそれを観察し・・・

 「ホントウの悪魔とは、自分を悪魔と思っていない人間を指して言うのであるーー
 自分では夢にも気付かないまんまに、他人の幸福や生命をあらゆる残忍な方法で否
 定しながら、平気の平左で白昼の大道を闊歩していくものが、ホントウの悪魔でな
 ければならぬ」(P115)

 面白い作品ですが、「伊奈子」が登場して、話が複雑になりすぎたように思います。
 伊奈子を登場させなくても、充分に味わい深い作品になったと、私は思うのですが。

 さて、夢野久作の短編におけるマイベストは、なんといっても「一足お先に」です。
 タイトルがサイコー。しかも、次のような謎めいた言葉から物語が始まります。

 「トックの昔に断り棄てられた、私の右足の幽霊が私に取り憑いて、私に強盗、強
 姦、殺人の世にも恐ろしい罪を犯させている事がわかったとしたら、私は一体どう
 したらいいのだろう。」(P175)

 主人公は、病気で右脚を切断して、外科病院に入院している新東という青年です。
 新東は、無くなった脚に痛みを覚えたり、その脚が歩き回る夢を見たりしています。

 そんな折、副院長から脚を失った後に夢遊病になった例を聞き、心配になりました。
 夢中遊行を起こさないため、今後は脚の夢を見ないようにと考えたりしました。

 ところがある朝、副院長に「歌原未亡人は貴方が殺したのでしょう」と言われ・・・
 そう言われて、自分が夜中に歌原未亡人を殺し、宝石類を盗んだ記憶が蘇って・・・

 と、非常にスリリングな展開をします。しかも、最後のどんでん返し!
 私のイチオシの夢の作品です。怪奇小説的な味わいのある、ミステリー作品です。

 さいごに。(スコーンセット)

 日光の中禅寺湖畔にある英国大使館別荘で、スコーンのセットを食べました。
 絶景を前に、家族とのティータイムは格別。実にぜいたくなひとときでした。

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